仕事のできる部下との面談
問題のある部下との面談については、たいていのマネジャーが事前準備を怠らない。面談はスムーズに進まないだろうし、査定の根拠を説明できるよう用意しておくべきだとわかっているからだ。仕事のできる部下についても、同様に入念な準備をしておきたい。業績の良い部下との面談は褒めることしかないので順調に進むと思っていたら、ときに、恐ろしく悲惨な面談になることもある。
マネジャーとして経験を積むうちにわかることだが、優秀な従業員は、これまで黙っていた問題を面談の場にぶつけて解決しがちだ。その問題は状況により異なるが、いくつか例を挙げておこう。
「昇進のスピードが遅いですよね」
「業績のわりに給与が低くないですか」
「仕事がよくできるといつも褒めてくれますが、報酬に反映されていませんよね」
「周りの同僚は、業務水準に見合った仕事をしていません」
「マネジャーは、仕事のできる部下のことは放ったらかしですよね」
「いい仕事をしたところで、表彰もなければ、報酬への反映もないんですね」
できる部下からのこうした発言は、耳の痛い内容でもありがたく受け止めて、それに向き合おう。耳障りのいいことだけを言う部下が大半である中、本当のことを伝えてくれる人はなかなかいないので真剣に聞こう。
部下の貴重な発言で、あなたが自覚できていなかったギャップを埋められるかもしれない。八つ当たりはやめておこう。あなたが気分を害したのは、伝えた人のせいではない。わざわざ教えてくれた人に嫌がらせをしても、事実は変わらない。無視したほうが楽かもしれないが、マネジャーとしてのキャリアを考えた場合には致命的である。
もちろん、その情報は部下というフィルターをとおっているため、事実と完全には一致していない可能性はある。だからといって、軽視すべきではない。現職での経験が浅いあなたには、重要事項と空騒ぎが見分けられないのかもしれない。優秀な部下がわざわざ進言すべきだと考えた内容は一聴に値する。部下としても、面談に問題を持ち込まず、無難に終わらせたほうが上司が喜ぶのは知っているはずだ。よほど問題だと思ったから、切り出したのだろう。
ときには、トラブルメーカーの部下が状況をかき回して悦に入っている場合もあろうが、そういうのはたいてい仕事ができない人だ。
改善点を指摘する
業績評価のプロセスで大きな問題となるのが、ほぼ全員の部下に「可」か「優」をつけるマネジャーだ。実際には業績の低い部下もいるのに、である。これは軋轢を避けたい心理からの行動であるらしい。こうした罠には嵌まらないように。部下の改善すべき点を指摘しないのは、本人のためにもあなた自身のためにもならない。「誠実に評価する」という原則に反しているうえ、「仕事には問題がない」と部下に誤解を与えている。これでは今後、その部下の仕事ぶりが改善するはずがない。あなたが「問題なくできている」と部下に伝えてしまっているのだから。
さらに、その部下が同僚と評価の内容を共有する可能性もおおいにある。別の優秀な部下が、自分より明らかに仕事のできない人が似たような評価を受けているのを知った場合、モチベーションがどうなるかは予想に難くない。
おまけに、改善すべき点を指摘しなかったことで、未来にのしかかる問題を作ってしまっている。自分の部署から人員を削減せざるを得ない状況になった場合を考えてみよう。あなたはおそらく、業績の低い部下に出ていってほしいだろう。だが解雇の対象としたい相手には、訴訟を起こせるだけの根拠がある。業績評価では一切、低評価を受けていないのだから、あなたは法的に脆弱な状況にあり、贔屓や差別を告発されてもおかしくない。