会社の上層部が「無能だらけ」になるワケ

さてこの四つの仮定が揃うとどうなるか。

まず特定の職階で優秀だったものが次の職階でも優秀である確率は低い。ただし上位階層のポストの数は少ないのでこれ自体はあまり問題でもない。問題なのは、確率論的にいって「特定の職階では優秀だったが次の職階では優秀でない人」が多数いるということだ。

彼らは新しい職階では評価されないため、さらに上位の職階に進まずに適性のない職階にとどまることになる。こうしたことがあらゆる職階で起こると組織の上層部は無能だらけになるわけである。

数理的にいっても職階の数が多い組織ほどこうなる。ただしこれはあくまで先ほどの四つの条件が揃った場合であり、現実の健全な組織はこうした罠に陥らないように四条件のうち一つ以上を回避する手を打っているはずである(たとえば、組織で働くすべての人が本書を読むことで普段の仕事を経営視点で捉えるようになることでも、条件3・4の仮定は簡単に崩れる)。

といって仕事における喜劇の数々に苦笑しているばかりではいけない。

上司が無能だと笑うのは簡単だが現実はそう単純でもない。おそらくすべての人が大なり小なりこうした無意味な仕事もどきを作りだしている。本当の責任はすべての人にある。

「チェックされない書類」が生まれる仕組み

たとえば我々はときどき自分の仕事に必要な製品・サービスを利用するために最も安い業者を探して外注したりする。「△△ 激安」と検索してみてインターネット上で最安値を見つけるのに血眼になる。しかし、その激安品によって節約される経費よりも検索に使った時間分の給料の方が高かったりする。

それどころか「安かろう、悪かろう」「安物買いの銭失い」とはよく言ったもので激安品はやはりそれなりに低品質で仕事の役に立たなかったりする。そうするとこの時間とお金は丸ごと無駄になるわけだ。

ほかにも事務における書類のチェックや、工場や建設をはじめとした現場仕事における検査においても、我々は大して見てもいないのに指差し呼称をしながら「ヨシ」などということもある。「大丈夫、前の人も見てるんだし」という具合だ。

残念ながら人間はみんな似たり寄ったりだ。前の人もまた「大丈夫、後ろの人も見てるんだし」となるのは当然だろう。こうして誰にもチェックされない書類や造形物が出来上がる。

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