数と量を追いかける現代の商売は危うい

業績の一時的な回復なら、バランスシートを見て経費を落としていけば、営業利益ペースでは改善します。しかし、その営業利益の回復に見合った商品力をどうするかとか、販売の仕組みをどうするかということを、現場を主役にして立て直すには何年もやり続けなければならない。

だから、店舗から本部にもどんどん意見を上げてもらい、本部はそれを改善する。店舗から上がってきたものに対して、できるだけ店舗の意見を尊重して変えていくということの積み上げが必要なのだと思います。

――『倉本長治先生語録10選』の一つ「数と量への宣戦」という文章で、倉本は「小売業の本質はあくまでも一人ひとりに幸せを売ることにある。売れる数や数量よりも、その内容や人のこころの交流が忘れ去られていては大変なのである」と、商いの本質を忘れて数と量を追いかける経営に警鐘を鳴らし、宣戦を布告しています。

数年前、アマゾン・ドット・コムが第2本社を計画し、候補地を募集したところ、全米の200を超える都市や地域が破格の条件で誘致を競ったことがありました。そんなとき、シアトル近郊のポートランドに住む主婦が新聞の投書欄にこんな投稿をしていました。

撮影=よねくらりょう

巨大チェーンが地元の焼きそばや漬物をなくしてきた

「アマゾンさんとウォルマートさんがそんなに大きくなりたくて場所が欲しいなら、みんなで月の南側の土地をあげましょうよ。そうしたらこの街にはまた、個性豊かな商店が復活して、地域経済も良くなり、私たちもちゃんとした仕事に就けるでしょうから」

倉本長治さんの遺した「店は客のためにある」とは商いの本質です。しかし、近代流通業は数と量を追求することにかまけて、大切なことを忘れてしまった。

たとえば、良品計画の本部の近くに、かつて麻婆茄子の弁当がうまい店がありました。あるいは、見た目は汚い店だったけど、タンメンや焼きそばがうまい店など、抜群においしい店がありました。店主が具合を悪くして休んでいると聞けば、「うちから修業に行かせるから店を開けてくれませんか」と言って私が手紙を出した店もありました。

漬物だって、スーパーマーケットや百貨店にはおいしいものはなかなかない。なぜなら、近代流通が「できるだけ多くの量を、できるだけ遠くまで持って行って商売しよう」とした結果、愛情も特徴もなく、添加物がたくさん入った商品だらけになってしまい、本物がなくなってしまったからです。そうやって、近代小売業がなくしてきたことがたくさんあるわけです。