20代の認知度が53%に急落……衝撃の調査結果がパナソニックHDを襲った。それから2年、グループをあげての取り組みで76%にまでV字回復させた。ブランディング戦略成功の鍵となったのは、創業者・松下幸之助の発したある一文だった。ブックライター上阪徹氏が、パナソニックグループCEOの楠見雄規氏に聞いた――。(第1回/全2回)

※本稿は、上阪徹『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

この会社をサステナブルにすることが、私の仕事

――グループCEOに就任するにあたり、楠見さんがその根幹に据えたのは、一人ひとりの行動をどう変えていくか、だったんですね。

弊社はもともと、とりあえず利益が出たらいい、という考え方ではないカルチャーを持つ会社なんです。ただ、苦しい時期に直面して、まずは利益を、ということが社員に対しても言われるようになった。

「どれだけの営業利益を出さなあかんのや」、あるいは、「どれだけの販売いかなあかんねん」、ということが前に出た時期もありましたけれども、本来的にはそれはすべて結果なんです。

【図表1】20代の認知度が53%に急落
20代~60代の全体では80~90%台を保っているパナソニックブランドの認知度だが、2017年の段階で90%だった20代の認知度が、2021年には53%まで落ちている。(出所=『ブランディングという力 パナソニックはなぜ認知度をV字回復できたのか』)

お客さまから信頼していただいて、どこの競合の会社よりも優れたご提案ができて、約束を守って、ご満足していただけて、喜んで対価を支払っていただく。そういうことができて初めて利益を得る、というのがもともとの我々の考え方なんです。だから、そういう原点に戻らないといけないと思いました。

また、我々の会社が何のためにあるのか、という点でも、社員一人ひとりが誇りを持てる考え方が伝えられてきていました。ところがいつの間にか、厳しい競争に勝つことだったり……いや勝つどころじゃないな、生き残ることが目的化してしまって、会社の存在意義を忘れかけていた。それが、この30年やと思うんですよね。

だから、この30年に失われていたものを取り戻して、一人ひとりが今はパナソニックですけど、創業以来の「松下」の社員らしい行動というのを、しかも今風にやっていただかないことには、会社はサステナブルにならない。

2年や3年で多少利益を上げるということよりも、この会社をサステナブルにすることが、私の仕事やと思っていますので。