いつの間にか利益や売り上げが目標にすえられていた
――創業の原点に立ち戻ろうと考えたのは、どうしてだったのでしょうか。
30年間、成長していないからです。30年間、例えば、M&Aもたくさんやってきたわけです。
では、どうしたらいいのか。
かつての元会長、高橋荒太郎が口を酸っぱくして言ったことがあるんです。要は、誰にも負けない立派な仕事をして、お客さんに選んでもらうんやと。利益が出ていないというのは、そういう仕事ができていないということなんです。ほとんどの事業がそのような状況にありました。
私が就任直後に、まずは2年間は競争力強化に徹すると言ったのは、もう脇目を振らず、誰にも負けない立派な仕事ができるようになろうよ、というメッセージだったんです。誰にも負けないというのは、お客さまにお役立ちをするということです。お客さまに喜んでいただくということにおいて、誰にも負けない、と。
もちろん、商品そのもので喜んでいただくということもあるし、お客さまに対して誠意をちゃんとお示しするということもあります。そういうことを通じて信頼していただく。信頼していただいて喜んでいただくから買っていただけるというところにおいて、誰にも負けないということになれば、成長に転じることができる。
2年間ですべてできたかというと、できていないことも多いのですが、できているところがあればさまざまなステークホルダーから信頼されるんです。それがイコール、ブランドということにもつながると思うんですよね。
――ただ、従業員にこうすべきだ、こうしよう、というメッセージはさまざまな形でこれまでも発せられていたと思います。
メッセージといいますか、経営理念はありましたよね。あるけれども、身に付いてない。それは朝会がなくなって、「綱領」「信条」「七精神」を読まなくなったという理由もありますが、いつのまにか利益であるとか売り上げであるとかが目標にすえられるようになって、「それを達成せよ」ということになった。そして、達成しないと、達成できなかったことがとがめられるんですね。
本来はそうじゃなくて、なぜこれが達成できないか、自分たちでちゃんと振り返って反省すべきところを直さないといけないんです。もっと改善しよう、というコミュニケーションが起きればよかったのですが、経営的に厳しい状況においては、なかなかそうはならなかったんだと思います。
短期的な業績の回復で、多少株価が上がった時期もありました。私はこれまでの経過も見た上で、まずは短期的な成長をもたらす特効薬よりも、漢方薬の処方が必要だと思った。そして3年目には、漢方薬と特効薬の組み合わせをやろう、と。こういうことを考えたんですね。