小売業の立場はいまだに向上していない
ただし、日本のチェーンストアのその後の歴史を見ると、当時、倉本さんがおっしゃっていたことをどこで忘れてしまったのかなとも感じています。そういう想いも含めて、倉本さんの生の言葉をそのまま使わせていただいたのです。要は、当時の中内さんたちが倉本さんから鼓舞されたのと同じことをしたかったのです。
というのは、いまだに小売業のポジショニングは飲食業も含めて決して高い位置にはありません。それに対して「そうじゃないんだ」「商業は極めて重要なミッションであり、大きな使命を持っているんだ」、ということを無印良品で働いているみんなに伝えたかったし、現場のスタッフの人たちが自分で意志を持って、自分で考えて仕事をすることが大事で、それこそが価値を生むんだ、ということを私は伝えたいと思いました。
――良品計画では、地域の商店街に出店したり、地場のスーパーマーケットに隣接して出店したりするなど地域密着に積極的に取り組んでいます。また、各自治体と連携することで地産池消や雇用創出、まちづくりなど、地域に新たな価値をつくりだそうとされていますね。
セゾン創業者が掲げた「商売精神の共有」
商売とはもともと地域に根差しているものです。それがすごく大事なことなのに、チェーンストアはそれを忘れてしまったのではないでしょうか。
チェーンストアだから、本部機能が店舗の役に立つために存在することはとても合理的なことです。ところが、現実には、本部が決めて店舗が作業するということになってしまって、まったく理にかなわなくなってしまった。
セゾングループ創業者の堤清二さんはこうした傾向に対して、「ハードのチェーンストアではなく、ソフトのチェーンストアをつくるべきだ」と言いました。ハードとは、品揃えから、什器から、建物から、接客応対から、全部統一したチェーンストア理論の標準化の中で、よく言われていたような内容です。
そうではなくてソフトとは精神です。「精神を共有しながら、店舗が地域に根差し、地域に向いた商売をやりましょう」ということを言っていたわけです。
これは堤さんの功罪とも言えますが、彼はたくさん会社をつくりました。そして、会社を「つくり終わった」のではなく、常に「つくる途中(過程)」にもかかわらず、他にもやらなければいけない事業が、あの人の頭からはたくさん湧き出てくるわけです。
しかし、二百何十社もつくって、それをすべて自分が面倒を見るわけにはいかない。当然、人に任せるのですが、単純に言えば、セゾンには二百何十社をまっとうに経営できるほどの経営者が育っていなかった。