「できません」と言える部下がいなかった

だから、どの事業が良かった悪かったではなく、今から考えればみんな事業としては良かった。ただ、それを誰がやったかということ、それだけです。

堤さんは、「ここに川をつくって街をつくるんだ」と言って、普通はやらないような投資をどんどんやるわけです。

しかし、「ショッピングセンターをつくるんじゃなくて、街をつくるんだ」というその概念自体は間違っているかというと、正しいんです。だからショッピングセンターの敷地内には「川も欲しいし、ホタルもいる所をつくりたい」というのは正しい。

ただ、それをどう具現化しようかというとき、投資はどの程度に抑えるべきかを計算すればわかるわけです。そこと堤さんの考えと、この二律背反をやってのける強力な番頭がいないとできないわけです。

ビジネスは二律背反です。そのつじつまをどう合わせるかが「仕事」です。たしかに、堤さんは飛び過ぎていた。それに対して、セゾンの人たちはみんな「できません」とは言えなかった。それが罪なのです。

撮影=よねくらりょう

本部の指示待ち状態だった無印良品をどう変えたのか

――本部がすべてを考え、現場はその指示どおりにやればいいというチェーンストア病に多くの企業が罹り、お客さまとの最前線にいる現場から考える力を奪っていきました。拙著『店は客にためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる』(プレジデント社)に解説文を寄稿されたファーストリテイリングの柳井正さんも、かつてその病にかかっていた時期があったと言っています。

私もこういう立場になってくる過程で、いろんなことを考えました。私が常務だったころ、良品計画は業績が悪くなった時期があって、当時は正直言って今の私が否定しているような本部と店舗の関係の時代でした。

それがそのころのうちの体質だったわけですが、前任の松井忠三とともにそれをひっくり返して、ひっくり返したものを仕組みや制度に落とし込んで運営化し、磨いていこうとしたわけです。

小売業の改革は簡単ではありません。業績が悪化したときに、いきなり現場に思考力が働いたり、改革する意識や概念が湧き出たりするように社員を育てていたかといえば、そうではない。本部が「こうやれ」「ああやれ」と言っていた企業の現場では、社員がそんなふうに育つわけがないんです。

だから、「現場が主役なんだ」ということを言葉としてまず提示しながら、みんなが「この会社は本当にそう思っているんだな」と実感してもらえるようなことを、最初は疑われながらでも何年もかけてやっていくしか、やり方はなかったわけです。