不動産は「買いが買いを呼ぶ」バブル状態
その後遺症として表れたのがインフレである。経済実態以上に通貨供給を増やしたのだから、貨幣の価値が下がり、モノの価格が上がった。いわゆる「カネ余り」状態を人為的に作ったわけで、不動産や株式、貴金属、そしてビットコインまで資産の価格は大きく上がった。金融資産だけでなく、生活必需品の値上がりも激しさを増したので、中央銀行は一気に金利を引き上げて、過熱した景気を冷さざるを得なくなった。そしてようやくインフレが沈静化しつつあるというのが世界の状況だ。
一方で、日本でもマイナス金利政策や量的緩和などで「カネ余り」に拍車をかけた。これが株価を上昇させ、不動産価格を高騰させている大きな要因だ。
2023年の上半期(1~6月)に、東京23区の新築分譲マンションの平均価格が初めて1億円を超えた。前年同期に比べて6割も高い1億2962万円という驚愕の価格だ。もちろん東京で働くほとんどのビジネスパーソンには手が届かない価格になっている。中古マンションの価格も上がっているので、保有資産価値の上昇が購買力を生む「買いが買いを呼ぶ」バブル状態になり始めている。もちろん、円安によって「超お買い得」と感じた外国人が日本の不動産を買っているのも事実だが、そうした「実需」だけで不動産が上がっているわけではない。
物価は上昇しているのに、給与が増えない日本
年明けに3万3000円台だった日経平均株価が、わずか6営業日で3万6000円を付けることなど、バブル期を彷彿とさせる値動きだ。もちろん、新NISA制度が始まったことで、新たな長期投資資金が株式市場に流入しているのも事実だが、だからといって、あまりにもハイペースであることに変わりはない。
問題はそうした資産以外の生活必需品の物価上昇が、世界と様相を異にしていることだ。米国の場合、物価上昇と共に給与の引き上げも進み、購買力は維持された。物価上昇が経済成長へとつながったと言ってもいい。日本でも岸田首相が「物価上昇を上回る賃上げ」と繰り返し発言しているのは、日本の物価上昇が輸入原材料やエネルギー代に消えてしまい、企業や個人事業主の儲けにつながり、それが給与の形で還元される「好循環」になっていないことだ。
購買力が維持できなくなれば、経済成長は止まり、日本の経済力はますます低下していく。一段と円安が進めば、円建ての株価や不動産はまだまだ上昇する可能性がある。だが、円安で輸入物価の上昇に再び火がつけば、資産価格の上昇に何の恩恵も受けない庶民の生活は一段と厳しさを増すことになる。