ビジネスパーソンは自己完結では乗り越えられない
あえて広く多様な世界へ飛び込んでいかなくても、自分の周りの狭い世界の中で自己完結し、その中で幸せに生きていくという生き方もあるでしょう。ですが、さまざまな人とかかわり合いながら仕事をするビジネスパーソンにとっては、自分の周りの限られた出会いや組織の狭い人間関係のノウハウだけでは、必ず乗り越えられない局面が訪れます。
そのようなときにこそ、読書はみなさんの心強い味方となるのです。本は読めば読むほど、知らないことに出会います。自分が「何もわかっていない」ことがわかり、そのわからないことの不完全燃焼感を抱えながらも、前へと進む力が養われます。
自分が「何もわかっていない」ことを認識することこそが、他者の意見に耳を傾け、他者の視点で世界を見渡し、他者の考え方を理解したり、想像したりすることにつながるからです。
そうした体験を積み重ね、自分の中で反芻していくことで、初めて深い人間理解を得ることができ、「人間力」という意味での対人能力も上がっていきます。
もちろん、「脅し」によって人を動かすつもりは毛頭ありません。ですから、「教養を身につけなければ、30代後半以降の出世競争に乗り遅れますよ」などと言いたいわけではありません。
読書が人間理解を深める
私がここで言いたいのは、読書によって知識と経験の幅を広げることで、人間理解がいっそう深まり、新しい視点で世界を見ることができるようになり、それが「人生100年時代」といわれるみなさんの長い人生の一助になるのではないでしょうか、ということです。
そして、それは生成系AIの登場により、ほとんどの仕事がAIに取って代わられる時代が来ても、仕事という面でも役に立つだろうと思います。逆に言えば、「人間」から表層的なものをすべてそぎ落としていったら、最後に残るものは何なのか――。それをあなた自身の目で確かめてみてくださいということです。