背景にダイハツとトヨタの「企業文化」の違いか

公表結果によると、『開発スケジュールが過度にタイトになる傾向(計画の問題性)』との回答が2886人と最多だった。『公表された発売時期や開発日程遵守(延期不可)のプレッシャー』は2515人。『人員不足』は2074人、『社風・組織風土』が1734人だ。ダイハツの生産や試験などを担当する現場の対応力を超えるスピードで、新車供給が目指されたと解釈できる。

なぜそうなったか、要因は多く思い当たる。見逃せないのは、ダイハツとトヨタ自動車の企業文化の違いかもしれない。

トヨタは“ジャスト・イン・タイム”の生産を徹底することによって、事業運営の効率性を常に引き上げた。顧客が注文した自動車を、より早く供給するために、最短時間で効率的に生産する。ムダ、ムリ、ムラを徹底的に排除し、コストは可能な限り減らす。その生産方法は、生産ラインの省人化、サプライチェーンの強靭きょうじん化などわが国経済の成長に寄与した。

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「トヨタについていけない」という焦りがあったか

ただ、アンケート結果などを見る限り、トヨタの持つ効率化のノウハウに、子会社であるダイハツの組織全体が本当に習熟したとは考えづらい。この点は、記者会見での発言からも読みとれる。トヨタ自動車の副社長は「現場の負担を大きくした可能性があると認識できていなかった」と述べた。

自動車メーカーという同じ産業界に属する企業であっても、モノづくりの考え方の違いは大きいのかもしれない。トヨタはダイハツを完全子会社した。組織を傘下に収めはしたものの、そこで働く人々の基本的な価値観、行動様式を均質化し、高めることは難しかったということだろう。

結果的に、ダイハツの現場では、「開発の遅れは許されない」という心理が先走ったとみられる。焦りを解消するため、一部で試験データの書き換えなどが起き始め、徐々に組織に広がった。行動経済学の理論にある“集団心理のわな(同じ考えの人が集まると、反対意見を言いづらくなる)”などの心理は高まり、不正に異を唱えることは難しくなった。

特に、2014年以降、トヨタ自動車の世界戦略の加速に対応するため、現場では事業運営のスピードを高める焦りが高まっただろう。結果的に、コンプライアンス体制は機能せず、品質不正は常態化したと考えられる。