もちろん、くよくよと悔やみ続けるのは逆効果だが…

この点は、後悔に関する重要な学術的発見のひとつだ。後悔の感情は粘り強さを引き出す場合があるのだ。課題に粘り強く取り組めば、ほとんどの場合、パフォーマンスも向上する。研究者のニール・ローズは、反実仮想に関する研究の先駆者のひとりだ。ローズも初期の有力な研究でアナグラムを用いている。

その研究によると、実験参加者に「もし~~していれば……」という思考をいだかせると、アナグラムの問題で正解に到達する数が増え、正解を導き出すまでに要する時間も短くなったという。

もちろん、後悔がつねにパフォーマンスを向上させるわけではない。いつまでもくよくよと悔やみ続けたり、頭の中で失敗を何度も思い返したりすれば、逆効果になりかねない。また、後悔する対象を誤れば、パフォーマンスの改善には結びつかない。

たとえば、ブラックジャックの戦略を後悔するのではなく、赤い野球帽を被ってカジノに出掛けたことを後悔しても、効果はない。それに、過去の行動を後悔する際は、ときに激しい苦痛に押しつぶされそうになることもある。

しかし、ほとんどの場合、「もし~~していれば……」と少し考えるだけでも、その後のパフォーマンスが改善する。

“ギリギリ落ちた”経験のある人は成功しやすい

挫折をきっかけとした後悔の感情は、キャリアに好ましい影響を及ぼす可能性もある。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のヤン・ワン、ベンジャミン・ジョーンズ、ダシュン・ワンによる二〇一九年の研究では、権威ある国立衛生研究所(NIH)の助成金に応募した若手科学者たちのデータを一五年分調べた。

まず、助成金支給の当落線上の評価を受けた一〇〇〇人以上の科学者を選び出した。このうちの半分は、辛うじて助成金を受給できた人たちだ。この面々は、後悔を感じずに済む。もう半分は、あと一歩で助成金を受給できなかった人たちだ。この面々は、後悔をいだかずにはいられない。

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ワンらの研究では、これらの科学者たちのキャリアがその後どうなったかを調べた。すると、長い目で見ると、あと一歩で助成金を受給できず、「もし~~していれば……」と感じた科学者たちのほうが一貫してパフォーマンスがよかった。

彼らは、その後に執筆した論文の引用件数が格段に多く、いわば「ヒット論文」を発表する確率が二一%高かった。失敗の経験が成功への燃料になったのだと、この研究では結論づけている。

あと一歩で助成金を受給できなかった経験は、おそらく後悔の感情を生み出しただろう。その結果、じっくり反省して戦略を見直し、それがパフォーマンスの改善につながったのである。