ほめるだけでは子どもは育たない

マシュマロ・テストを思い出してほしい。先のことを考えて目の前のお菓子をすぐに食べるのを我慢することができるかどうかを試すものだが、非認知能力が育っているかどうかをみるためのものである。

子どもの心を傷つけないように、いい気分にさせてあげられるようにと、子どもを甘やかし、ほしいものを何でもすぐに与えてしまうようでは、欲求不満に耐える力は身につかず、思い通りにならないとキレたり心が折れたりしやすくなる。

榎本博明『勉強ができる子は何が違うのか』(ちくまプリマー新書)

アメリカの教育家ノルトによる『子どもが育つ魔法の言葉』(石井千春訳、PHP文庫)は、日本ではほめて育てることを説くものとみなされている。だが、よく読むと、ほめて育てるというよりも、言葉でほめることをしながらも、愛情をもって厳しくしつけることを説いている。

たとえば、子どもがだれかを傷つけたり、わざと物を壊したりしたときは、「まず『そんなことになると分かっていたら、許さなかった』と、子どもにきっぱり言うべきなのです。そして、なぜそんなことになったのかを考えさせ、自分の行為を恥じさせ、反省させなくてはなりません。ときには、同じ失敗を繰り返さないように罰を与えることも必要でしょう」とアドバイスしている。

また、ルールや約束事を例外なく守らせるという欧米流の子育ての基本も説かれ、「家庭内でルールを守らせるということは、子どもが社会の一員として生きてゆく上で、とても大切なことです」、「いちばん大切なことは、親の同情を引けばわがままをとおせるのだと子どもに思わせないように注意することです」というように、子どもに歩み寄りがちな日本の親とは正反対の姿勢を推奨している。

親も先生も役割を放棄してしまった

かつては日本でも、子どもの将来のために、厳しい社会の荒波を乗り越えていけるように、そしてどんな状況の中でも力強く自分の道を切り開いていけるように、あえて心を鬼にして厳しく育てるということが行われていた。だが、今では「ほめて育てる」「叱らない子育て」が広まり、自己コントロール力を鍛えてくれる親は圧倒的な少数派になってしまった。その結果、子どもたちの自己コントロール力の未発達がさまざまな問題を引き起こすこととなったのである。

先生も親もやさしくなったというと良いことのように思うかもしれないが、視点を変えると、将来困らないように子どもたちの心を鍛えるという役割を果たしてくれないということでもある。

学校の先生や親が自己コントロール力の発達を促すような働きかけをしてくれないのであれば、自分自身で意識して自己コントロール力を鍛えるしかない。

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