財務官僚にとっては“利用しやすい首相“

【田村】財務省的には、増税でもって防衛費の拡大に歯止めをかけたつもりなのでしょう。

出費が増えることには本能的に抵抗するのが財務官僚です。岸田さんは財務省を「身内」と思っているかもしれませんが、そういう意識が財務官僚にはないのかもしれません。

ただの“利用しやすい首相”という気がします。

【石橋】経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針、*3)が6月16日に閣議決定されました。これを実質的につくっているのは、言うまでもなく財務省です。

この骨太の方針では、財源問題はこぞって先送りにされています。岸田さんが「会期末解散・7月衆院選」を検討していることがわかったからでしょう。

さすがの財務省も、明確に増税を示せば、自民党が衆院選で苦戦するということにようやく気付いたのではないか。

それならば、2022年末に防衛費増に伴う法人税増などを打ち出す必要はありません。財務省と宏池会は政局的なセンスがあまりに乏しいと思います。

*3 骨太の方針 「経済財政運営と改革の基本方針」のこと。内閣府に設置されている重要政策に関する会議のひとつである「経済財政諮問会議」で決議された政策の基本方針。小泉純一郎政権において、「聖域なき構造改革」を実施するために同会議に決議させた政策の基本骨格が始まり。

ねじ込まれた「プライマリー・バランス黒字化」

【田村】骨太の方針には、“姑息こそくな表現”が入れられています。

安倍さんは、アベノミクス最大の目標として掲げた「脱デフレ」を達成しきれなかったことを悔いていました。財務省が主張する「プライマリー・バランス(基礎的財政収支)の2025年度黒字化」に縛られていたからです。

プライマリー・バランスの黒字化を優先させられて、大胆な財政出動ができなかったのです。

安倍さんが「プライマリー・バランスの黒字化」という表現を嫌っていたのを財務省も気にしていたのか、「骨太の方針2023」では、この表現が消えています。

ただし、第5章の〈令和6年度予算編成に向けた考え方〉のなかに、〈令和6年度予算において、本方針、骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する。〉という一文があります。

骨太方針2020と骨太方針2021には、プライマリー・バランスの黒字化が明記されています。

つまり、骨太方針2023には明確にプライマリー・バランス黒字化は記されていないけれど、2020と2021に基づくということは、「プライマリー・バランス黒字化が目標ですよ」と明記しているのと同じです。

安倍さんが嫌ったプライマリー・バランス黒字化という文言を消したように見せかけて、姑息な表現で盛り込んであるわけです。