政府の「経済対策」に感じる違和感
岸田文雄首相が発表した「経済対策」の内容に違和感を持った人は少なくなかったのではないか。
いまは国民を物価高が襲うインフレ局面であるのにもかかわらず、「デフレ完全脱却」をテーマに掲げているからである。
そして、この食い違いにこそ、岸田首相の経済対策が国民生活の実態とズレてしまっている根本原因があると考えている。
そもそも、岸田首相が物価高の中で「デフレ完全脱却」を掲げたロジックはどのようなものだったのか。
11月2日の記者会見で岸田首相はまず、日本経済について「バブル崩壊後の30年間、我が国はデフレに悩まされてきた」と振り返り、具体的に「日本企業は、短期的な業績改善を優先して値下げをし、そして利益を確保するためにコストカットを進めてきた。あえて単純化すれば、賃金・投資を抑え、下請企業に負担を寄せてきた」と述べた。
実際に日本では賃金がなかなか上がらず、物価変動を加味した実質賃金は1996年をピークに減少傾向が続き、「失われた30年」と呼ばれている。
これに対して、岸田首相は「この2年間、経済界に賃上げや設備投資、研究開発投資を強力に働きかけてきた」として、その結果、「30年ぶりとなる春闘における大幅な水準の賃上げ」などを実現できたと自らの成果を強調した。
岸田首相の認識はあまりに楽観的すぎる
一方で、現在も「賃上げが物価上昇に追いついていない」と指摘し、「デフレから完全に脱却し、賃上げや投資が伸びる、拡大好循環を実現するために」給付金や減税などの経済対策を実施していくと発表したのである。
つまり、いま日本では物価や賃金が上がっており、長らく経済を苦しめてきたデフレから脱却しつつあるので、給付金や減税などの経済対策を通して、経済の好循環を生むサポートをしていくというわけだ。
この岸田首相のロジックは本当に正しいのであろうか。
確かに、2023年春闘の正社員の平均賃上げ率は3.58%と約30年ぶりの高水準となった。
ただ、これは岸田首相が「強力に働きかけてきた」成果というよりも、物価高によって引っ張られる形で賃金が上昇した側面が大きい。
日本が長らく苦しんできたデフレから脱却する好機として、現在の経済状況を捉えるのは楽観が過ぎるのではないだろうか。