タッチ決済にできて、Suicaにできない弱点

そうなれば沿線経済圏は自然とVISAとの結びつきを強めていくだろう。一日の長があるクレカ業界に対し、JR東日本経済圏は利用者をはじめとするステークホルダーにどのようなメリットを示せるのか。

今後、外国人旅行者に加えて日本人旅客をターゲットにしていく上で、タッチ決済にはSuicaに真似できない強みがある。

Suicaが利用ごとにチャージから運賃を引き去る「プリペイド」型サービスであるのに対し、タッチ決済は後でまとめて請求される「ポストペイ」型サービスなので、利用実績をもとに後から割引が適用可能だ。タッチ決済を導入した海外各都市では、1日や1週間などの単位で請求額に上限が設けられており、自動的に最も得な運賃が適用される仕組みが導入されている。

日本でも今年3月からタッチ決済実証実験を進めている福岡市地下鉄が、7月7日から来年3月末までの予定で、何度利用しても請求額が1日あたり「1日乗車券」と同等の最大640円になる割引サービスを試行しており、注目を集めている。

また南海電鉄・南海フェリーは電車とフェリーを乗り継いだ場合に、鉄道運賃が無料になる割引サービス「スマート好きっぷ」を導入済で、これらは旅行者のみならず、地元の日常的な利用にもメリットがある。

わかりやすく、「おトク」な仕組みを用意できるか

関西には約20年前からポストペイ型交通ICカード「PiTaPa」が存在するが、専用のカードを作らなければならない、割引サービスが中途半端で魅力がないといった理由で、発行枚数は「ICOCA」の10分の1程度とふるわなかった。これが手持ちのクレカでも利用でき、日本人利用者にとっても魅力的な割引が設けられるとなれば、どの程度利用が広がるのかは興味深い。

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現行Suicaは、カードの記録容量の制約から複雑な割引制度を組み込めないため、利用実績にもとづきポイントを別途付与して対応している。クラウド化で運賃計算の自由度は広がるが、ポストペイではないSuicaはタッチ決済以上にわかりやすく、「おトク」な仕組みを用意できるだろうか。

現状では沿線在住者をターゲットとしたSuica経済圏と、外国人旅行者をメインターゲットとしたVISA経済圏は直接、競合していない。VISAはあくまでもユーザー、事業者に選択肢を提示することが重要で、Suicaとライバル関係にあるとは考えていないというスタンスだ。