今のところ日本人の日常使いにはなりえない
ロンドンのように紙の切符を倍額以上、バスは現金使用不可にすれば、利用者の多くをタッチ決済に誘導することはできるかもしれないが、クレジットカード普及率・利用率が異なる日本で同様のことはできないし、やるべきではない。現時点では、タッチ決済は日本人旅客の日常的な利用を代替する性質のものではない。
機能面から見ると、入出場記録をサーバに送信し、外部で運賃計算するタッチ決済は「オープンループ」と呼ばれるが、現行Suicaは、ICカードと自動改札機の通信で運賃計算が完結する「クローズドループ」のシステムを採用している。
Suicaも入場後、時間差で利用データをセンターサーバに送信し、記録を同期しているが、入出場処理をクローズドループとしたのは、Suicaが開発された1990年代のコンピュータ処理能力と通信速度、品質が発展途上だったからだ。
運賃計算をカードと自動改札のローカルな処理に絞ることで、日本の膨大な旅客数を捌ける処理速度を確保しつつ、通信トラブル時も改札機能を最低限維持できる信頼性の高いシステムを構築した。これを支えるのが高速通信と高セキュリティを実現したICチップ「FeliCa」だ。
「Suicaがなければマヒする」も過去の話
技術的制約の中、誕生したSuicaが四半世紀近く都市交通を支えてきたのは驚嘆すべきことだが、前述のように技術革新でタッチ決済も今やSuicaに近い処理速度を実現している。Suicaでなければ改札機能がマヒするというのは過去の話である。
JR東日本もタッチ決済と同様、運賃計算を自動改札機ではなくサーバ上で行う「クラウド型Suica」を開発し、今年5月27日に青森、盛岡、秋田の新規3エリアに導入した。首都圏、仙台、新潟の既存3エリアでも2026年度までに順次、リプレイスする予定だ。
当面は運賃計算をサーバで行う以外の仕組みは変わらず、現行のシステムも当面は併存するようだが、将来的にはタッチ決済と同様、データのほとんどをサーバで保持、処理する形態に移行するはずだ。
具体的にどのようなサービスが可能になるのか。JR東日本はプレスリリースで、現在はまたいで利用できないSuicaエリアの統合、時間帯や曜日などの一定条件の利用に応じた運賃割引クーポンの発行、新幹線やバス、タクシーなど複数の交通機関を1枚で利用できるMaaS(Mobility as a Service)チケットの実現などを挙げている。