改札処理スピードはICカードと遜色ない

交通用タッチ決済の仕組みは、入場駅と出場駅から算出された運賃を後でカードに請求するという単純なものだ。しかし店舗でクレカを使えばわかるように、カードが有効か確認する「オーソリゼーション」に時間がかかるため、駅の改札やバスの車内のような滞留が許されない場面には不向きだ。

そこでQUADRACが構築したのが交通用の特別なシステムだ。入場時にクレジットカードの認証をすべて完了させるのではなく、改札タッチ時にクレカICチップのオフライン認証と、カードがネガリスト(無効なカード)に含まれていないかを確認する。

正式なカード認証は移動中にバックグラウンドで行い、カードが無効の場合はネガリストに追加されるため、出場できなくなるという仕組みだ。QUADRACのサーバを介して認証するため、VISA以外のほとんどのブランドカードも使用可能だ。改札処理は0.2秒以内に完結することが求められるSuicaなど交通ICカードに対し、やや遅い0.3秒で完了するが、実用性は問題ない。

このシステムは2014年に初めてタッチ決済を導入したロンドン地下鉄・バスで確立されたものだ。ロンドン交通局では2003年に非接触型ICカード「オイスターカード」を導入したが、利用者はカードにチャージする手間があり、事業者も対応する機械が必要になる。そこでロンドンオリンピックを機に、運賃を直接請求できるタッチ決済の導入を構想した。

Suicaは将来なくなってしまうのか?

話を受けたVISAだったが、前述の認証の仕組み上、当初は交通機関へのタッチ決済導入を想定していなかったという。そこで対応可能なシステムを構築してロンドンに実装し、これをベースにバンクーバー、シドニー、ミラノ、シンガポール、ニューヨークなど世界の大都市に広げていった。現在、ロンドンの地下鉄利用の4分の3以上がタッチ決済に移行したという。

では、日本でもタッチ決済はSuicaに代表される交通ICカードに取って代わっていくのだろうか。QRコード乗車券にしろ、タッチ決済にしろ、この手の話題はどうしてもSuica陣営との対立軸ばかり語られがちだが、機能と役割に分けて考えると、少なくとも現状、両者は対立関係ではなく補完関係にあるといえるだろう。

スマホを自動改札機にかざしている手元
写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです

最大の理由はターゲットの違いだ。タッチ決済は国際ブランドカードを保有する訪日外国人が入国後すぐに利用できることが最大の強みだ。日本で使える乗車券は、磁気券にしろICカードにしろ海外では購入できないため、訪日外国人は到着後に券売機や窓口で購入または引き換える必要がある。

だが両替や多言語対応の手間は交通事業者の悩みの種であり、手持ちのクレカでそのまま乗ってもらえるなら、ありがたい話だ。いちはやくタッチ決済の実証実験を始め、正式導入を決めた事業者のほとんどが空港連絡バスや空港アクセス路線を有する事業者だったのはそのためだ。