過去の成功例ではなく「自分にとっての正解」を探した

もともと「頭を癒す」ビジネスにも前例がないうえ、マッサージやエステで「睡眠」を売りにするのも常識外のことでした。「サービスを受けている最中に寝てしまったら、もったいない」や「寝るだけに、わざわざお金は払わない」といった意見を周りからも沢山受けたし、金田さん自身もそう思い込んでいたといいます。

しかし、金田さんは、「多くの会社が起業され、どの経営者も必死に勉強しているはずなのに、10年後に生き残れるのは5%ほどしかいない」という状況から、「同じことを勉強して、同じように頑張っても、平均的な『よくある会社』として消えていきやすい」と考え、思い切って、自分たちにしかできない発想や表現を打ち出すことを選択しました。「成功例があるかどうか」という基準で物事を決めずに、「絶頂睡眠」という他にない価値を追求することで、唯一無二のサービスとして人気を集めていったのです。

「当たり前でしょ」なんて言ってくる、誰かの正論に負ける必要はなく、「自分にとっての正解」を探し、自ら作る意識を強く持つことの大切さを、「悟空のきもち」は教えてくれます。

業界のセオリーをくつがえすパッケージデザイン

2016年にリニューアルされた明治の「ザ・チョコレート」もまた、正論をはねのけることでヒットを実現させました(※2)。食品の新商品は、「1000に3つしかヒットできない」として「センミツ」と言われるほど、ただの前例通りでは通用しにくい分野です。「ザ・チョコレート」も、2014年に一度発売されるも、思うような成果をあげることができず、失敗を経験していました。

失敗を踏まえて、開発チームは、メインターゲットである女性を魅了できる商品とデザインに特化する形でのリニューアルに踏み切りました。カカオ豆の比率を上げた大人向けのビターな味わいにこだわり、板状のチョコを「ギザギザ型」「ドーム型」「ミニブロック型」「スティック型」の4つに分け、形の違いによって風味の変化を楽しめるようにしました。そして、中身以上に、業界のセオリーをくつがえしたのが、パッケージデザインでした。

写真=iStock.com/JanPietruszka
※写真はイメージです

セオリー通り、チョコの写真やイラストを出して、どんな商品なのかを分かりやすく具体的に伝えることはせず、カカオの実を象徴的に見せるデザインを選択したのです。この選択に対して、社内で不安視する声は多く、「中身が分からない」「売れるわけがない」と言われたといいます。しかし、年配の上層部に対して、「あなたの年代がターゲットではない」と言い切って説得し、リニューアルにこぎつけました。

その結果、デザインが大きな話題を呼び、220円前というプレミアム価格にもかかわらず、発売後1年で3000万個を売り上げる大ヒット商品になりました。

※2 withnews「『あなたの年代がターゲットではない』と反論 目標の倍売れたチョコ」、リクナビNEXTジャーナル「『あなたの年代がターゲットではない』上司へ放った“あのひと言”の真相|明治のチョコレート革命」を参照。