「サービスとはなにか」純ちゃんの答え

理容店のサービスとはなんだろうか。

むろん、ヘアカットの技術がいちばんだ。ヘアカットが下手な店には誰も行かない。

純ちゃんは言う。

「バリカンを入れますよね。それで、髪の毛に段ができないようにカットする。それが基本の技術です。遠くから見て髪の毛に段ができたようなカットでは昔はさんざん怒られたものです」

では、髭剃り、爪の手入れ、シャンプーといった付属技術はどうなのだろうか。うまい下手はどこに表れてくるのだろうか。

「髭剃りでもシャンプーの仕方でも、やっぱり上手下手はありますよね。でも、髪の毛と違い、傍から見ていてわかるものじゃありません。上手下手はお客様に聞いてみるしかないんです。髭剃り、シャンプー、マニキュア、マッサージはお客様の判断なんです」

理容店のサービスとはつまり、これだ。ヘアカット以外は客が判定する。客がいいといったものが上質なサービスだ。技術者同士が評価したものでもないし、コンテストで優勝したからいいわけではない。

「適当でいい」という言葉から髪型を探っていく

「客の要望を採り入れる。それでいて客に要望と現実との違いを上手に理解させる」

サービスの本質とはこれだ。

客の頭は理容師の「作品」ではない。理容師が自らの技術を誇示して、思うがままにヘアスタイルを整えることは創作行為で、上質なサービスではない。

だからといって客が言った通り、忠実に髪の毛を切ればいいわけでもない。

客は「どういったヘアスタイルが自分に似合うのか」をわかっているわけではない。「どんな髪型にしますか?」そう聞かれて、「短髪のツーブロック」「ソフトモヒカン」「スポーツ刈り」「パンチパーマ」と答える人はまったくの少数だろう。

大半の人は「伸びた分を切ってください」と言う。普通は「適当でいい」「みんなと同じ」がいいのである。

理容師のサービスはここから始まる。

「夏ですから、短めにしませんか?」

客の質問を受け、上手に誘導しながら、客が気に入る髪型を提案し、それに仕上げていく。

客は理容師が提案して初めて、自分の髪形にちゃんと向き合うのである。いい理容師はコンサルタントみたいなものだ。客と一緒に似合う髪型を見つけるのが仕事だから。

純ちゃんはコンサルタントだ。ニュー東京の先生たちもそうだ。4年近く、同店で髪の毛を切りながら、わたしは観察してきた。そのわたしが言うのだから間違いはない。