治療後は妊娠がしにくくなるなど、さまざまな問題がある

20、30年前に比べれば、がんでの死亡率は下がり、がんは本当に治るようになった。けれども、そこからこぼれ落ちる人もいる

今年5月に一般社団法人「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」学術集会が行われ、全国から医療従事者やがんサバイバーの当事者、支援者が集まりシンポジウムが開催された。

筆者撮影
「AYAがんの医療と支援のあり方研究会」学術集会、2023年5月

同法人の理事長で、国立国際医療研究センターがん総合診療センター乳腺・腫瘍内科医師の清水千佳子さんも壇上に上がり、当事者の声に耳を傾けていた。

そもそもこの会は、厚生労働省の「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」班の研究メンバーが集まり、2018年に設立された。

清水理事長に設立の背景を聞いてみる。

「20、30代の乳がん患者の数は全体の人数からすると決して多くはないのですが、がん治療によって妊娠がしにくくなるなど、生殖に代表されるようなさまざまな問題があります。医療の進歩で、がんは治るかもしれないけれど、その先生きていく上で困難があったり、あるいは小さなお子さんを残して旅立たれる方がいらしたり。長く生きる価値と、子どもを持ちたいという価値のベクトルは全く違う方向なのです。

医療が進歩し外来で通院して化学療法ができるようになりました。しかし実際は頭髪の脱毛などのアピアランス(外観)の問題で、患者さんが外に出ずに家にこもってしまうなど、この世代ならではの問題も際立ってきました。

2017年の厚労省の研究班には、私のような乳腺専門医のほか、希少がんが多い小児がんの専門医など、診療科を横断して集まっていましたので、研究のデータを蓄積していくには全国的な連携が必要です。都会と地方では情報格差もあり、医療従事者も患者数が少ないがゆえに関心を持ちづらいということもあるので、がん患者を支える医療者側も情報を提供する持続的な団体が必要だと思ったのです」

ライフステージが大きく変わる時期だからこそ支援が必要

ここ十数年で、がん体験を話す人も増えてきた。しかし表立って話すのはセレブな人々による「美談」が多い。切実な日々の生活こそが重要なはずなのに、そこが抜けてしまうストーリーになる。

AYA世代は、先述の通り、ライフステージが進んでいく時期にがんになっているため、それぞれのニーズが異なる。思春期は、就労していないため、経済的社会的な自立ができていないこともあって、意思決定の主体は親になりがちだ。