「日本の味」を持ち込んだら、まったく売れなかった

「創業以来、モスバーガーは、『高品質』と『おいしさ』にこだわりを持ってきました。90年代には、日本でマクドナルドをはじめとするファストフード店の低価格競争も起きましたが、モスバーガーは独自路線を貫き、その競争にも加わりませんでした」

オーダーを受けてから調理する「アフターオーダー式」、朝採れ野菜をふんだんに使ったメニュー開発、肉が苦手な方向けに大豆が主原料のソイパティ開発など、コストや労力はかかっても、一貫して高品質なおいしさにこだわってきた自負がある。

「しかし、台湾に進出した当初はこれが裏目に出ました。『日本の味をそのままで』というコンセプトを掲げて日本と同じ商品、お店づくりをしたのですが、建築費や包装資材、食材ともにコストがかかってしまいました。結果として他社より高い値段になり、まったく売れなかったのです」

また、90年代の日本と台湾では、賃金格差も大きく、衛生上の問題から生野菜を食べる習慣がほとんどなかったことなども影響した。テリヤキバーガーのタレに使う味噌の味も受け入れてもらえず、日本のメニューをそのまま売っていくのは難しいという判断に至ったのだという。

その代わりに投入したのが、日本で1987年から発売しているライスバーガーだった。

バーガー類の半分以上は「ライスバーガー」に

台湾は1895年から1945年まで約半世紀、日本統治を経験しており、高齢者には日本語を話す人もいる。日本と同じ米食文化の土台の上に、醤油など日本の味付けにも親しんでいる。

ただ、同じ「焼肉ライスバーガー」でも、今度は味を台湾人に合うように工夫した。

「日本のモス関係者が台湾店で焼肉ライスバーガーを試食すると、いつも『タレを忘れているよ』と指摘してくるんです。台湾人は濃すぎる味を嫌い、薄味を好みます。そこは、『日本のモスのほうがおいしいよ』と押し付けることはできないんです」

ライスバーガーは口コミを通してたちまち人気を呼んだ。それも「ハンバーガー店」としてではなく、「焼肉バーガーを出す店」という触れ込みで噂が広まったのだ。

ライスバーガーは、今やバーガー類の売り上げの半分以上を占めるようになった。「台湾の人々の間では、『モスと言えばライスバーガー』という認識が定着していったのです」(福光氏)。

日本のモスバーガーでも、常時2、3種類のライスバーガーメニューを展開しているが、台湾ではさらに多く、常に6~10種類は用意されている。

モスバーガー(台湾名:摩斯漢堡)のメニュー。ライスバーガーのラインナップは日本よりも豊富だ(摩斯漢堡公式サイトより)

「海鮮かき揚げ」や「きんぴら」「生姜焼き」「焼肉」「エビ」などは塩味や酸味を日本のものより減らし、子どもから高齢者まで食べられるように作っているという。よそ行きの味ではなく、あくまで日常食として、台湾人の味覚に“刺さった”というべきか。