楽観主義の罠から自分も仲間も遠ざけた
「『あんまり楽観的にならないほうがいい』私は言った。『グスタボが言ったことを、覚えているだろう─斜面の高みから見ると、フェアチャイルド機は、氷河上のちっぽけな点だったと』」
(ともに同書より)
彼は一貫して仲間の淡い期待を退け、自分自身も安易な楽観主義に陥るのを懸命に防ぎました。「あと少しで助かる!」と思い込めば、現実がその期待を打ち砕いたとき、自分の心も死に引き寄せられてしまうからです。
ナンドは、相手がこちらの意見を否定すると、「それなら、私たちはどうしたらいいのか?」と率直に聞きました。このような会話からも、ナンドが相手に思いつかせる形で人を動かすことを狙っていることが見えます。
彼は仲間の期待にも、色よい返事を一切しませんでした。自らの心を楽観主義の罠に落とさず、歩き続けることだけを貫徹し、ついに村に辿り着いて救助を求めることに成功したのです。
安易な楽観主義者ほど、苦難のときには早く死ぬ
ナンドは、自著の中でも一貫して自分は典型的なリーダーではなかったことを描いています。では、ナンドのリーダーシップはどんなものだったのでしょうか。
○八方塞ふさがりの中で絶望せず、打開策として新たな目標を掲げた
○相手に思いつかせるように会話して、相手を目標と一体化させた
○安易な期待を持たせず、落胆により絶命するのを防いだ
○ただ一つ、目的地に向かって歩み続けることに集中した
「安易な楽観主義者が苦難では早く死ぬ」とナンドは言っています。厳しい指摘ですが、現実は私たちの期待通りに動かないことも多く、空想の世界よりも冷徹な現実に合わせる精神を持つ者のほうが、生き残る力を失わずに済むのです。
ナンドは、「他力つまり、救助隊が来ることを祈り続ける」愚かさを悟っていました。だからこそ自らの力で脱出口を切り拓き、黙々とひたすら行動し続けたのです。
極限の状況に打ち勝つリーダーシップは、このような行動ができる人のものなのです。
遭難した45名のうち、生還した16名の一人。この事故で母と妹を失った。食料が尽きかけ、自力脱出を敢行した二人のうちの一人。のちに『アンデスの奇蹟』を書いた。