偉人たちが残したリーダー論は、どう活かすべきなのか。「自動車王」と呼ばれたヘンリー・フォードは1926年刊の『藁のハンドル』で、効率を追求する経営方式について説いた。鈴木博毅さんの『30の名著とたどるリーダー論の3000年史』(日経ビジネス人文庫)より、一部を紹介する――。
アンティークカー
写真=iStock.com/Marc Dufresne
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なぜT型フォードは1500万台も売れたのか

歴代世界第2位の生産台数、累計1500万台。これはT型フォードという自動車の記録です。1908年から生産を開始し、生産終了は1927年。自動車の歴史に華々しい販売記録を打ち立てたこのクルマを開発したのが、自動車王と呼ばれるヘンリー・フォードです。

19世紀末の自動車産業の黎明期に巡り合ったフォードは、お金持ちの嗜好品だった自動車を、安価で信頼できる製品に変えて世界的なモータリゼーションの波を生み出しました。製品の低価格化と、高賃金を両立させることが社会全体の発展に役立つという信念をフォードは持っており、当時の高級車の4分の1の値段のT型フォードは飛ぶように売れて、高賃金を得ていた自社の社員も自動車を購入していきます。

フォードは大量生産方式を進化させ、今日の工業では当たり前のベルトコンベア方式などを採用。製造方式・人材育成・販売などにさまざまな工夫改善を積み重ねることで、フォード社を世界的な成功に導きました。

「世界のトヨタ」も学んだ大量生産の元祖

のちにトヨタ自動車で「ジャストインタイム」の生産方式を開発した大野氏は、アメリカの事業団がトヨタの工場を見学した際、なぜこのような仕組みを発明できたのかと聞かれて、『全部フォードの自伝に書いてありますよ』と答えた逸話があります。

カンバン方式をはじめ、生産方式の発明、改善でトヨタ自動車は世界的企業となっていますが、そのトヨタ自動車もフォードの思想から多くの着想を得ていたのです。

お金持ちのために、高度な職人が作り上げる高価な製品、それが自動車だった時代に、フォードは大衆が買える安価な車を目指しました、また自社の工場労働者に、当時の賃金の約2倍を支払ったことで、産業界から驚きをもって迎えられました。

「わが社の真の発展は、一九一四年、最低賃金を1日二ドル余りから五ドルに引き上げたときに始まる。その結果、私たちは自社の従業員の購買力を高め、彼らがまた、その他の人々の購買力を高めるというふうに、その影響がアメリカ社会全般に波及していったからである」

(『藁のハンドル』竹村健一訳、中公文庫より)