高賃金で優れた従業員を雇い、低コスト化を実現

理由は、製品価格が下がるほど、購入できる客層が広がるからです。さらに、高賃金を目指すことで、社会全体の購買力が高まり、豊かさが広がり始めるのです。

「製品を買ってくれる大衆は、どこからともなく現れるのではない。経営者も従業員も、はたまた購買者層も、すべて一体なのである。だから、もしある事業が賃金を高く、価格を低く保つような経営ができないならば、その事業は自滅せざるをえない」(同書より)

フォードは付け加えて、高賃金を実現するには「低コスト化」が不可欠だとしています。コスト削減をせずに高賃金を実施しても、購買力は増えない。フォードはこの信念の元、高賃金で優れた人材、技術者を雇い、彼らの能力を低コスト化に活かします。

フォードの組立ライン(1913年)(写真=PD US/Wikimedia Commons)
フォード社の組立ライン(1913年)(写真=PD US/Wikimedia Commons

この循環により、歴史に残る傑作自動車T型フォードと、フォード社自体の世界的な繁栄を実現できたのです。

大企業はサービスを創造・提供することで繁栄する

フォードは、大企業は産業家(今日の経営者)のリーダーシップが生み出す存在だと述べています。企業の成功の大小は、リーダーシップのレベルに依存します。

鈴木博毅『30の名著とたどるリーダー論の3000年史』(日経ビジネス人文庫)
鈴木博毅『30の名著とたどるリーダー論の3000年史』(日経ビジネス人文庫)

「第一に会社は、なんらかのサービスを提供するようにデザインされねばならない。だから会社は、そのサービスを優先させていくべきである。サービスが会社の後にくるのではない」(同書より)

会社の存続のためにサービスをするのではなく、何らかのサービスを提供できるように企業は形作られる必要があります。提供するサービスこそがビジネスであり、会社の建物や形が企業ではないからです。

「より多くの人に受け入れられるサービスほど」、大企業としての規模を拡大できるのです。そのために、先のコスト削減の恩恵を、自社と消費者で分かち合うことがポイントになります。コスト削減、改善による価格の低下は、消費者の利益になるからです。