同族経営の「負の側面」
「ジャニーズ事務所の役職員の誰もが、ジャニー氏に対して意見を言うことができず、また言おうともしなかったと考えられる」。
忖度、保身、崇拝、遠慮、誰も何も言えず、言わなかった理由には、さまざまな種類があるだろう。
同族経営の負の側面は、こうした心理的な要素だけではない。
いやそれよりも、大切なものがある。
それは、組織における管理・支配のシステムである。具体的には、とかく弊害ばかり言われがちな「官僚制」を整えられるかに組織が続く鍵がある。
わたしは以前、松下電器(いまのパナソニック)とトヨタ自動車において、創業家の「三代目」がどう振る舞ったのかが、両社の分かれ道だったと、拙著『「三代目」スタディーズ』で論じた。
パナソニックとトヨタ自動車の違い
パナソニックは、創業者・松下幸之助という「経営の神様」を崇め奉り、後年になって「松下幸之助歴史館」を作った。その反面、同氏の孫であり、松下家三代目の正幸氏が2019年に取締役を外れたのを最後に、創業家は経営には関わっていない。
一方、トヨタ自動車は、今年4月に創業家出身の豊田章男氏が社長を退き会長になったものの、同氏の息子・大輔氏は、同社の大型新規事業ウーヴン・バイ・トヨタのSenior Vice President(上級副社長)を務めており、関係は続いている。
パナソニックは創業「者」(松下幸之助)を名実ともに神様として扱っているのに対して、トヨタ自動車は創業家を柱としながらも徹底した経営システムの改善を続けている。
両社の差は、官僚制、つまり、個人に頼らず仕組みで回らせられているかどうか、にある。会社としての良し悪しというよりも、ここに企業風土、企業文化の違いがある。
ジャニーズ事務所もビッグモーターも、創業者=カリスマに寄りかかるばかりで、物言えば唇寒しを隠れ蓑にして、組織を動かすシステムを作らなかったし、作ることができなかった。