同族経営企業はどこで間違えるのか
かつて、ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは、『支配の諸類型』で組織や集団を従わせるタイプを3つに分けた。
「合法的支配」、「伝統的支配」、そして「カリスマ的支配」の3つである。
松下幸之助氏、ジャニー喜多川氏、さらには、ビッグモーターの兼重宏行氏は、いずれも、その人だからこそできた偉業に基づく「カリスマ的支配」だと言えよう。
同族経営企業が間違えるのは、カリスマ亡き後なのである。
「カリスマ的支配」を引き継ぐ形での「伝統的支配」、つまり、何となく続けてきた習慣や前例をそのまま続ければ良いのだと安易な道を選んでしまうところに落とし穴がある。
ジャニーズ事務所が創業者を失った後もなお過去を清算できなかったばかりか、世間からの批判が高まるまで小手先の対応で済むと思い込んでいたのは、同社が「伝統的支配」に逃げ込んだ結果にほかならない。
同社にせよビッグモーターにせよ、不祥事の対応にあたって創業家が株式を持ち続けたまま、すぐには動かなかったのは、カリスマの威光を引きずり、伝統を守れば経営を続けられると安直に考えたからではないか。
なぜ「官僚制」が機能しないのか
「カリスマ的支配」を続けられない以上、トヨタ自動車の「ジャストインタイム」に代表される生産方式に基づき、合理的なシステム=「合法的支配」へと移らなければならない。
そのシステムは、誰もがその役割に忠実に、かつ誰が担っても差がないように仕事をする官僚制でなければならない。
しかし、同族経営企業、それも大きな企業は、この官僚制が機能しない。カリスマに依存し、伝統にあぐらをかいているからだけではない。
なぜか。
マスメディアが沈黙するからである。
ジャニーズ事務所の調査報告書で「マスメディアの沈黙」と表現されている通り、同族企業が巨大になり有力になればなるほど、「マスメディアからの批判を受けることがない」ため「自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化」するまま止まらない。
理にかなった体制を作るインセンティブもメリットも、どこにもないからである。