ストーリーづくりのセンスを高めるには

戦略ストーリーはサイエンスというよりもアートの世界に属する。だから、スキルを磨くのではなく、センスを高めることのほうがよほど大切になる。

優れた戦略ストーリーの根幹は何か。それは、自分自身が誰よりもそのストーリーを面白がるということだ。ふとしたきっかけである経営者と会ったとき、初対面にもかかわらず彼はいきなり滔々と自社の戦略ストーリーを話してくれた。それはこういう話である。

中古車業者は、売れるかどうかわからない自動車の在庫を抱えながら商売を行っている。もし売れれば大きなマージンを手中に収められるものの、逆に売れ残ったらオークションで損切りしなくてはならない。

そこで発想を転換して個人からの中古車の買い取りに特化する。買い取った自動車は毎週全国各地で開かれるオークションで売却してしまう。その際にオークションの相場を見て妥当な値付けをすれば、確実に売れる。その一方で、買い取り価格は相場と適正マージンとのバランスを見ながら決めればいい。つまり「後出しジャンケン」で必ず勝つのと同じストーリーだ。

もうおわかりの読者もいるかもしれないが、これは中古自動車業界に「買い取り専門」という独自の戦略ストーリーを持ち込んだガリバーインターナショナルの話である。彼の話は実に面白かった。何よりも話している本人が面白くてたまらないという様子だった。

センスを養うには、できるだけ数多くの戦略ストーリーを読み込んでほしい。その際にはストーリーの背景にある因果論理を読み解いていく。そこで有効になるのが、「歴史的方法」だ。

たとえば、一つの企業に関する昔の新聞や雑誌の記事を集めてみる。私の手元にはアマゾンに関する過去10年間分のスクラップがある。ネットバブルが弾けて赤字が続き散々にこき下ろされたかと思うと、最近では手放しの賞賛を浴びたりと、同社の評価はその時々で大きくぶれる。

しかし、ある程度長い時間幅で見てみると、そうした表面的な評判の振幅にもかかわらず、経営者のいっていること、やっていることは常に一貫している。そこから、「人々の購買行動を助ける」というコンセプトで戦略ストーリーが着実に構築されてきたことがわかる。

また、自分で戦略ストーリーを描いてみることも重要である。平社員だって構わない。「自分だったらこういうことをやるな」ということを描いてみる。そして、人に話してみる。ガリバーの経営者ではないが、本当に面白ければ人に話したくてムズムズしてくるはずだ。

そもそも戦略をストーリーとして考え、組み立てるということは、創造的で楽しい仕事である。それなのに難しい目標設定を与えられ、眉間にしわを寄せて戦略を考える人がなんと多いことか。戦略はいやいや考えるものではない。自分で面白がれるからこそ努力できる。努力が持続する。

自分でも面白いと思っていない話を人に聞かせ、ましてやそれで会社を動かそうとする。これは犯罪的に迷惑な話だし、そもそもうまくいくわけがない。まずは自分で心の底から面白いと思えるストーリーをつくること。優れた戦略構想の出発点はいつもそこにある。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=伊藤博之 撮影=澁谷高晴 写真=Fujifotos/AFLO)
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『ストーリーとしての競争戦略』