ローミング拡大でも「高速で安定的」ではない
楽天のローミング用に貸し出されている周波数は、今回の拡大契約に際して高橋誠KDDI社長が「そんなには貸さない」と言っているように、以前と変わらず800MHz帯のみ。したがって、楽天の1.7GHz帯でつながりが悪い場所ではauの800MHzを掴んでつながりはするものの、単独のプラチナバンドに過ぎないためにau回線を含めたトラフィック混雑などに影響されやすく、およそ高速で安定的とは言えないのです。
ソフトバンクの宮川潤一社長が楽天の「最強プラン」のネーミングについて、「ちょっとなかなかしびれる」と優良誤認に相当する懸念を示す発言をしたのは、そのような理由によるものです。
首都圏でのローミング拡大は夏の後半以降、本格スタートします。しかし、現状のままでは「最強プラン」に乗り換えたものの、つながりはしても快適ではないという新規契約者の期待外れにもなりかねない、という懸念があるわけです。そうなると、一日も早く欲しいのが自社独自のプラチナバンドです。
楽天モバイル共同CEO退任の影響
唯一プラチナバンドを持たない楽天は20年12月から、総務省に対してプラチナバンドの再割当要望を出し続けてきたわけですが、いよいよ念願かなって700MHz帯と隣接の空き部分に3MHz幅×2のプラチナバンドを確保できる見通しとみられています。しかし、このプラチナバンドを3大キャリア並みに活かすためには、さらなる基地局設置が必要にはなるわけで、せっかく抑えた基地局設置コストの再増加という問題も生じます。通信品質の向上は、なかなか一筋縄ではいかないのです。
2つ目の不安材料は、今回の決算発表を前に明らかになった楽天モバイル代表取締役共同CEOであったタレック・アミン氏の退任です。タレック氏は、楽天モバイル最大の先進性といえる基地局を含めた完全仮想化ネットワーク「楽天シンフォニー」を、ゼロから構築した立役者です。
加えて海外の通信キャリアなどにも太いパイプを持っており、このサービスの海外展開の主幹を担ってきたことから、楽天モバイルにとって数少ない大型有望ビジネスであるシンフォニーそのものが、急失速しかねないというリスクを感じさせます。