「ChatGPT」開発企業との協業提携

もちろん今のままのARPUや契約増加ペースでは、この目論見が成り立つとは到底思えないのですが、今回の会見の中で三木谷氏がひと際嬉々として話をしていた話題に、その不可能を可能にするヒントがあるようには思いました。それはChatGPTのリリースで昨今の生成AIブームに火をつけたOpenAI社と、「最新AI技術によるサービス開発における協業で基本合意」したというトピックスです。

OpenAI社が日本のどの企業と業務提携を結ぶのかについては、大きな注目を集めていました。もっぱら、サム・アルトマンCEOと長年の友人であると伝えられてきた孫正義氏率いるソフトバンクなのではないかと言われていたのですが、急転直下、楽天と協業提携を結んだことはちょっとした驚きであったのです。

サム・アルトマン
「ChatGPT」を開発したOpenAIのサム・アルトマンCEO(写真=Steve Jennings/Getty Images for TechCrunch/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

三木谷社長によれば、「楽天グループが持つ『多業務にわたるデータの豊富さ』『クライアントのネットワーク』『モバイルが持つエッジコンピューティングパワー』の3点が、提携成立の決め手になった」とのこと。OpenAI社の技術的協力を得て、無限の可能性を秘める生成AIによる顧客データ活用により他社にない魅力的なサービス提供ができるならば、早い段階でモバイル事業の契約回線が爆発的に増えるということもあり得るのかもしれない、そんな夢のある話には感じられるところです。

楽天グループが抱える「不安材料」

このように久々に明るい話題をもって決算会見に臨んだ三木谷楽天ですが、この明るい話題に不安材料がないのかと言えば嘘になります。次にそのあたりについて、具体的に紐解いていきましょう。

1つ目はau回線でのローミング拡大についてです。これにより受信エリアについては人口カバー率が98.4%から99.9%になるわけで、確実に受信エリアの拡大は実現できます。しかし、通信の質という点においてauのプラチナバンド(もっとも携帯電話に適してつながりやすい周波数帯)水準がそのまま使えるのかと言うと、そうではありません。

auはプラチナバンドである700MHz、800MHzを含めた複数の周波数帯を使って通信を行っており、この2つのプラチナバンドを含めた複数の周波数帯を束ねて通信するキャリアアグリゲーションによって高速で安定的な通信ができるのです。