ココさんはがっちゃんを美術館に連れて行った
でも、そんながっちゃんのペースに一方的に引っ張られるココさんではなかった。珍獣使いのようにがっちゃんを制しながら、頻繁に遠足に出かけていくようになった。
ココさんの実家は、銀座で画廊をやっていたそうだ。ココさんも若い頃は画家を目指していたらしい。
そんな背景のためか、ココさんはがっちゃんに絵を見せようと思い、美術館に連れていくようになった。
ロスに住んでいたときは、ボクはがっちゃんをよくGettyなどの美術館に散歩がてら連れていっていた。でも、がっちゃんは絵に関心を持つことはなく、いつも小走りでウロウロするだけだった。
ココさんが連れていっても、やはりそれは同じだった。ココさんは毎回小走りで動き回るがっちゃんを追いかけ、疲れて帰ってきていた。
岡本太郎の絵の前でじっと立っていた
そんなある日、奇跡が起こった。誰も想像することのない出来事だった。
ココさんはその日、川崎市にある岡本太郎美術館にがっちゃんを連れていった。その日、美術館から戻るとココさんが興奮して報告しにきた。
「がっちゃんが、一カ所に5分間立ち止まっていました!」
「え、同じところに立って動かなかったの」
がっちゃんは、1分として同じところに立ち止まることができない性格だ。それが5分静止していたとは、信じ難い話だ。
「そうなんです! 1枚の絵の前でずっと釘付けになっていました!」
「がっちゃんが、絵をじっと見ていたの……」
これはもっと信じ難い話だ。がっちゃんが、美術館で絵に関心を示したことはなかった。この報告を聞いて、ボクも他のスタッフも驚いた。
でも、本当の奇跡は翌日に起きたのだ……。まさかそこから新しい物語が始まるとは、そのときは、誰も夢にも思っていなかった。