知能は「座標系」の学習モデルを用いて思考している

この理論によると脳は、無意識にたくさんの脳の皮質コラムの予測学習モデルを起動(活動電位までに至らないレベルで細胞の電圧を少し起動)させつつ、予想外の感覚情報が来るとニューロンを活動電位まで発火させ、判断と行動を行います。

私達はビルを何気なく見上げている時に、空から予想外の物体が落下してきたら、頭を抱えてしゃがむか、避けようとすると思います。予測学習モデルと違った感覚情報が突然現れた時、一気に活動電位にまでニューロンを発火させ新しい思考と行動を促すのです。

重要なことは、この「皮質コラム」の予測学習モデルは、思考と体験に基づく高次の概念においても同じように機能するということです。過去の学習によって、ボタンを押せば何が起きるか、という具体的な事象から、民主主義という言葉が何を意味するか、といった抽象的な概念においても、私達の知能は座標系の学習モデルを用いて思考しているのではないかとホーキンスは主張しています。

ジェフ・ホーキンス(写真=Ed Schipul/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

人類の歴史の95%は「運動と移動の旅の歴史」

この発見の大きなポイントは、人間の脳は「場所移動」による感覚情報の変化に伴ってニューロンを活発化させ、思考と行動を行うということです。すなわち、家の中に引きこもっているのではなく、外に出て移動し、時に運動し、様々な刺激に出会う時に、脳の働きが最も活性化するように人間の脳は作られているということです。

人類の誕生から定住して農耕を始めるまで、その長い歴史は狩猟採集民族として、大型動物を追っての旅と移動の歴史でした。現生人類の祖先は、サハラ以南ボツワナあたりに住んでいたと言われています。

彼らがアフリカを出て、ユーラシアを渡り、アメリカに渡り、南アメリカのフエゴ島にまで5万キロメートルを旅して、世界中に人類が拡散したと言われています(ちなみに私の会社の社名は、その人類の旅「グレートジャーニー」にちなんでいます)。そうした意味では、人類の歴史の95%は、狩猟採集民族の歴史であると同時に、運動と移動の旅の歴史でもあります。