あらゆる製品を生み出す魔法の場所

SF映画の金字塔といわれる1982年公開の映画「ブレードランナー」のオープニングでは、ロサンゼルスの街に炎が吹き出すフレアスタックなどが林立し、さながら石油化学コンビナートのような夜景が演出されています。リドリー・スコット監督は、羽田空港から乗った飛行機のなかで、眼下に広がる川崎浮島町(神奈川県)のコンビナートの夜景を目にしてインスピレーションを得たようです。

映画の巨匠を魅了するほどの壮大な夜景の石油化学コンビナートでは、何をしているのでしょうか。まず、タンカーからの原油を精製して、沸点の違いで、石油ガス、粗製ガソリン(ナフサ)、灯油、重油などに分けます。

ズバ抜けてガソリン(炭素数が5〜11の炭化水素)の需要が大きいので、接触分解で炭素数が多い軽油や重油の成分を触媒とともに加熱して分解し、ナフサをつくり、ガソリンを製造します。

大宮理『ケミストリー現代史 その時、化学が世界を一変させた!』(PHP文庫)

このナフサをさらに分解すると、エチレン、プロピレン、ブタンといった石油化学工業の基幹になる原料が得られます。また、ナフサの接触改質により、枝分かれが多い炭化水素(ハイオクガソリン)、さらにベンゼン、トルエン、キシレンといった芳香族化合物を合成します。

これらは可燃性のガソリンを加熱するため、危険な工程になります。そのためコンビナートでは、安全に操業するために膨大な技術力と努力が注がれています。いまや、コンピュータで管理することによって、巨大なコンビナートも数人で管理できます。

エチレン、プロペン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった化合物から、さまざまなプラスチック、合成ゴム、医薬品、カラフルな合成染料、洗剤、液晶材料などを合成していく現代の魔法が石油化学コンビナートです。

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