なぜ日本は全国各地に巨大な石油化学コンビナートがあるのか。河合塾の化学科講師の大宮理さんは「本質はクジラの解体と同じ。石油を余すことなく使い切るため、1カ所に集約する必要があった」という――。

※本稿は、大宮理『ケミストリー現代史 その時、化学が世界を一変させた!』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

夜の石油化学コンビナート
写真=iStock.com/Bim
※写真はイメージです

デートスポットは「工場夜景」

20世紀中盤から世界的に石油化学工業が勃興し、石油化学コンビナートという巨大な工場がその象徴になります。ゴジラやウルトラマンの怪獣が必ず壊しにいくところです。現在では、“工場萌えブーム”もあって認知度が上がりました。

私はコンビナートを偏愛しているので、独身のころ、きれいな工場夜景を見に、よく女性を連れていきました。夜景はウケるのですが、「あれが蒸留塔、あっちがクラッキングタワー、炎を出しているのがフレアスタック、こっちはエチレンのタンク……」と悦に入って解説をすると、ほとんどの女子はシラけます。

けれども、一人だけ例外の女子がいました。コンビナートのキラキラした夜景を見て、「これこそが猿から進化した人類が数学、物理、化学を合わせたテクロノジーの集大成や! あっちのボーボー炎出しているタワー、熱そうやから近くまで見にいくで!」と異常な食いつきで、一晩中、車でコンビナートめぐりをさせられました。それがいまの妻です(笑)。

連合軍が大勝したのは「工業力」があったから

第2次世界大戦で、連合軍を勝利に導いたのはアメリカの圧倒的な工業力です。

大戦を通じてアメリカは、31万機の航空機、8万8000台の戦車、90万台のトラック、41万門の大砲、27隻の航空母艦、2770隻の戦時輸送船などを生産しました。工業力による数の暴力でナチスや日本をボコボコにしたのです。

これら大量の航空機や戦闘車両、輸送トラックに大量のガソリンが必要になり、原油からガソリンをつくる技術が必要になります。原油の分別蒸留から得られるガソリンでは少なすぎるので、ほかの石油成分から接触分解(クラッキング)という方法で分岐型の炭化水素を多く含む高性能なハイオクタンガソリン(ハイオク)をつくりだす必要がありました。

接触分解では、石油成分から、ベンゼンやトルエン、亀の甲のような記号の構造式をしたベンゼン誘導体(芳香族化合物)も合成されます。従来、これらの分子は製鉄の際に使うコークス(炭素)の製造において、石炭を加熱して分解する際の副生成物であるコールタールという黒い液体から分離して製造していましたが、ガソリン製造の副産物として大量生産が可能になります。

芳香族化合物の有名な分子としてトルエンがあります。このトルエンからつくられる分子にTNTという爆薬の分子があります。第1次世界大戦で大量に使われはじめ、この大戦で使われた総量は6万8000トンでした。

それが、第2次世界大戦では、1年当たり136万トンもの量が必要になりました。これだけの量をまかなうには石炭からのコールタールだけでは足りないので、ガソリン製造とセットでトルエンを生産する必要があったのです。