「億ション」なのに相続税はわずか12万円

国税庁の資料には、東京、福岡、広島でのマンションの実例が掲載されている。東京都内にある43階建てのタワマンの実例。23階67.17m2の住戸の実勢価格(時価)は1億1900万円。ところが相続税評価額を算出すると価額は3720万円。なんと実勢価格は評価額の3.2倍にもなっている。

相続人が子1名とすると、基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人数)3600万円を引くと課税価格は120万円。マンションだけが相続財産だとすれば、税金はわずか12万円(税率10%)となる。

同資料では福岡のマンション(築22年、9階建ての9階部分、78.2m2)での実勢価格との乖離が2.36倍、広島のマンション(築6年、10階建ての8階部分、71.59m2)で2.34倍などと実例を示しながら、タワマンとは呼べない普通のマンションでの相続税評価額が実勢価格と乖離しているさまも掲げている。

マンションでの乖離率の平均は2.34倍と言われている。つまり時価1億円のマンションであれば評価額は4273万円(1億円÷2.34)になる。タワマンに限らず、マンションは現金で持つよりもはるかに税負担の少ない、いわば節税商品のような役割をもってきたことがわかる。

マンションと戸建てとの税金格差を是正へ

そこで今回予定されている改正では、実勢価格との乖離率が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価することになった。「相続税評価額×乖離率」でいったん実勢価格に調整しなおしてから0.6掛けする根拠はなんだろうか。

これには一応の理屈がある。戸建てにおける平均乖離率は1.66倍であるからだ。戸建てと同じ水準の乖離率以下ならオーケー。それ以上の場合はいったん時価に戻してから、戸建てと同様の調整を掛ける、つまり1÷1.66=0.6だから、これによって戸建ての場合との格差を是正しようとしたのである。

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この改正が適用されるのは2024年1月1日以降、相続や贈与によって取得する財産だ。タワマンだけが対象ではなく、マンションの場合はすべてが該当する。

さてここで困った問題が発生した。時価と評価額の乖離に着眼して相続税対策を行ってきた人たちだ。これまで時価の3~4割に評価額が圧縮されることによって、大きな節税が実現できるはずだった富裕層にとっては、まさに「寝耳に水」ともいえる改正なのだ。