地味だけど確実に爪痕を残した3人

ほんのちょっとの登場、あるいは回を重ねて、その切なくも短い半生を見せた人物がいた。「忠誠心」という意味で、私の心に爪痕を残した3人を紹介したい。

まずは、信長の妹・お市(北川景子)の女中・阿月(伊東蒼)。敦賀・金ヶ崎育ちの阿月は貧しい家の生まれ。足が滅法速いが、女であるがゆえに能力を発揮する場もなく。口減らしのために、父親に売りとばされたものの、奉公先から逃げ出したところをお市に助けられる。

命の恩人であり、侍女として迎え入れてくれたお市に忠誠心を誓う阿月。

お市が浅井家の謀反を徳川勢に伝えようとした思いを汲んで、命を賭してとんでもない長距離を一晩中走り抜ける。もうこの第14話がぐっときちゃってね。阿月はお市が書いた文「お引き候へ」を無事に徳川家の陣に届けた後、絶命してしまう悲話なのだが、伊東蒼がひとりでひきつけた。たった1話で名もなき貧しい女子の切ない一生を描くところに、作り手の良心を感じた。

すねえもんソングが醸し出したエレジー

もうひとり、たった1話だが“エレジー”を見事に魅せたのが、岡崎・奥平家家臣の鳥居強右衛門すねえもん、演じたのは岡崎体育である。

第21話、武田勢の猛攻撃&兵糧攻めに遭う長篠城で、徳川の援軍を待つ奥平信昌(白洲迅)。家臣のすねえもんは助けを求めて、泳いで走って徳川の陣に辿り着く。家康の娘・亀姫(當真あみ)の優しさに触れ、信長のムチャブリに翻弄されている徳川家の実態も知ることに。

敵に捕らわれた鳥居強右衛門が味方に援軍が来ることを伝える錦絵(画像=楊洲周延作「鳥居強右衛門敵捕味方城中忠言」/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

ところが、援軍の約束をとりつけて長篠城に戻ろうとしたとき、武田軍に捕まる。金に釣られて武田軍に寝返ったかと思いきや、奥平家への忠誠心と亀姫への恩を胸に、自らが犠牲になることを選ぶ。

これも阿月同様、「命を賭した伝言&忠誠心の悲話」ではあるが、劇中に流れたのんきな“すねえもんソング”が、物悲しさと切なさをうまく醸し出す秀逸な回だった。

人の数だけドラマがある

そして、言わずもがなの夏目広次、演じたのは甲本雅裕。最初っからずーっと家康に名前を覚えてもらえなかった家臣のひとりだ。気の弱い穏やかな事務方という役どころだったが、三河一向一揆で一度は家康を裏切ることに。僧侶や民を攻撃することに疑問をもっていたからだ。

結局は捕らえられたものの、謀反は不問に。許されたことから家康に再び忠義を尽くす。その恩返しとして家康の「身代わり」となって落命したのが第18話。しつこいくらいに名前を覚えてもらえなかった理由(家康の父・松平広忠から改名を命じられた)がわかり、長きにわたって松平家に仕えてきた夏目と家康の背景がようやっと可視化。

コメディ要素が忠義の裏付けへと見事につながり、膝を打った。

「みんな死んだから記憶に残ってるだけでは?」と言われそうだが、人の数だけドラマがあるという視点を改めて見せてもらった。