「エキゾチックな日本の旅館」には人気があるが…

外国人旅行客にとってはエキゾチックな日本の旅館というのは潜在的に大きな人気があります。京都や金沢などの観光地を歩くと、いわゆる街中の木造の町屋を旅館に改造した、新しいタイプの日本旅館も増えています。そして外国人旅行客が頼りにするトリップアドバイザーのような口コミサイトには、そのような施設に宿泊した口コミも好意的に寄せられています。

ではこの好況な旅館と廃業を迫られる旅館の格差はどこにあるのでしょうか。

ひとつは観光地としてのブランドの違いがあります。京都や東京の中心部と比べれば、県の奥の方にある隠れ湯的な温泉地が訪日外国人の集客で劣ることは容易に予想がつきます。もちろん山形の銀山温泉や群馬の伊香保温泉のように集客力のある地方温泉地はありますが、全般的には地方の温泉はインバウンドの恩恵を人気観光地ほどは受けることができません。

とはいえ、消えていく温泉旅館の問題点はもっと違うところに本質がありそうです。それを説明するのに若干の回り道をお許しください。

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「旅館では当たり前のサービス」が不満の原因

私は以前、外資系企業に勤めていたことや、独立してからもアメリカ方面の仕事が多かったことから、たまに「温泉旅館で週末を過ごしたい」というアメリカからの来客の相談に乗ることがありました。主に90年代から00年代の話だとお考えください。

よく覚えているのですが、最初に首都圏近郊の温泉旅館を紹介した知人が、後で「やっぱり後悔した」と言い、残念な感想を事細かに話してくれました。一応、外国人でも快適なように個室で各部屋にトイレがついていて、それなりの歴史と評判がある宿を選んだのです。しかし彼の不満の原因は旅館にとっては当たり前のサービスにありました。

最初に戸惑ったのは夕食の時間を18時か19時のどちらかに選ばなくてはいけないこと。外に観光に行きたい時間帯に食事をしなければならないうえに、20時になって繁華街に出たら観光客相手のお店はみんな閉店していたというのです。

旅館に戻った彼は、日頃の激務もあるので翌朝はぐっすり寝て過ごしたいと考え、朝食をキャンセルしました。すると、ちょっと嫌な顔をされたようです。しかも、朝食の時間が来ると部屋に仲居さんがやってきて強制的に布団を片付けてしまうのです。それがルールだという一点張りで、結局彼は奥さんとふたりで畳の上に座布団を敷いて仮眠する羽目になったというのです。