※本稿は、柏原光太郎『「フーディー」が日本を再生する! ニッポン美食立国論――時代はガストロノミーツーリズム――』(日刊現代)の一部を再編集したものです。
コロナ禍の富裕層は、贅沢な国内旅行で消費
コロナ禍で世界経済全体の成長が止まったかといえばそういうわけではなく、勝ち組・負け組の格差が広がり、勝ち組は株価上昇などの恩恵から資産を倍増させ、遊興費が増えていったといわれています。
コロナによる空港封鎖という事情があるため、インバウンドが入国できないのは致し方ないところですが、2019年に2000万人を突破したアウトバウンド(日本人の海外旅行者)はコロナ禍でも実は国内でひっそりと活動していました。
日本全国で高級旅館を何軒も経営するオーナーはあるとき、私にこういいました。
「表立ってはいえないのですが、2021年度の売上はすでにコロナ前を超えているんです。それはコロナの協力金とか補助金とかのおかげではありません。富裕層は国内でこっそりとお金を使いはじめています」
この状況は世界でも同じで、コロナ禍において資産を増やした富裕層は海外旅行で消費することができないため、コロナ禍の規制をくぐって贅沢な国内旅行で消費したり、奢侈品の購入を増やしていったといいます。
事実、この数年間のあいだに沖縄にできたラグジュアリーホテルはコロナ禍でも満室だったと聞きますし、ある離島に10年以上前に建てられたホテルにいたっては、当時は1億円もしなかった土地を数十億で買いたいというアジア人からのオファーが、毎日のようにあるそうです。
高級宿泊施設経営「7・30・100」の壁
前述の経営者にいわせると、高級宿泊施設経営には「7・30・100」の壁があるといいます。
1泊2食付きの高級旅館を考えたとき、どんなに設備や食事に凝ったとしても、1泊7万円以上取ることは、心理的なハードルが高いというのです。たしかに通常の日本人の感覚からいって、ふたりで15万円の宿は、よほど特別なご褒美でない限り、選びにくいと思います。
しかし、実際に日本の富裕層の行動を見ていると、いまや1泊30万円は充分とれるようになってきた、と彼はいいます。のちほど詳しく説明しますが、瀬戸内海の高級遊覧船「ガンツウ」や九州のクルーズトレイン「ななつ星」の価格を見ると、1泊30万円以上もするうえに、コロナ禍でインバウンドが来日していないにもかかわらず、予約がまったく取れない状況になっています。