部屋には背の低いベッド、朝食はブッフェスタイル…

これは要するに日本の伝統的なビジネスモデルに原因があります。旅館には板長がいて、決まった時間に宿泊客分の料理を用意する必要があったり、布団は朝早く回収して昼間のうちは干したりする必要があったり、それなりに理由があってそうなっているわけです。それがもっと自由度があるホテルに慣れた外国人にはウケが悪かった。まあそういう話だとお考えください。

それでこういった温泉旅館がインバウンドを新たなビジネスチャンスだと捉えて起死回生の手を打とうとしたら何が必要になるでしょうか。

工夫抜きに普通にやるべきことのリストを作成してみます。部屋は外国人がくつろげるようにリニューアルが必要でしょう。理想としては35平方メートルぐらいの広めの和室にして、畳の上には背の低いベッドが必要です。風呂は共用の温泉でいいとしても、客室内の洗面所は広く取り、トイレには温水洗浄便座ぐらいいれたほうがいいでしょう。あと、部屋の扉には鍵が必要ですね。

料理は朝夕ともに和食か洋食が選べたほうがいいでしょう。できれば朝食はブッフェスタイルでといきたいところですが、ここはセットメニューでも成立すると思います。あと部屋ではコーヒーが飲めないとダメですね。食堂ないしは宴会場では、夜はラウンジとしてビールやカクテルが楽しめる必要があると思います。

ビュッフェスタイルの朝食
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日本の大半の温泉旅館は家族経営

こういったリストを作ってみるとすぐにわかることは、要するに外国人客を本格的に取り込む旅館になるためには投資が必要なのです。ここで多くの温泉旅館は構造的に困ったことに直面します。

日本の大半の温泉旅館は家族資本の家族経営が大きくなったもので、その大半のケースではこれ以上銀行借り入れを増やすことが難しい状況にあります。1990年頃のバブル期に社員旅行向けの宴会場などに投資を行ってしまった温泉宿は親子三代でゆっくりと借金を返済していく以外に身動きがとれないといった状況の旅館もあるわけです。

実は世界のホテル業界でも同じことが起きていて、結果、資本と経営の分離が起きています。資本はゴールドマンサックスなどが立ち上げたファンドが持ち、ホテルのもともとの経営者がホテルの運営を行うわけです。オーナー社長がファンドの指示を受けるサラリーマン社長に転職するというのがひとつのイメージです。もうひとつがホテルや旅館を手放してファンドや運営会社に売却するケースです。

どちらの場合でもファンドは大資本なので、必要な設備投資をきちんと行い老舗旅館をリニューアルさせます。元のオーナーが廃業で手を引いた場合には、別の経営者を送り込むわけです。