社会的プレッシャーと差別に立ち向かうための5つの戦略

戦略①独身差別に対する意識を高める

最初に明らかになった戦略は、シングルを取り巻く差別と社会的プレッシャーを認識することだ。この戦略を理解すること自体は容易だが、実行するのはそう簡単ではない。

差別を受けたという意識が、シングルの人たちの自己肯定感に与える影響を探った研究によると、シングルの人たち自身でさえも、独身差別についてまったく無知であることがわかった(※5)

シングルの人たちのうち、「シングルの人たち」という項目を、差別されているグループとして自発的に選んだのは、たった4%だった。

そして、シングルの人たちはスティグマ化されているかと、はっきり質問されたときに、「イエス」と答えた人は、シングルの人たちの30%、カップルになっている人たちの23%だった。

これとは対照的に、ゲイの男性の100%、肥満の人たちの90%、アフリカ系アメリカ人の86%、女性の72%が、自分たちのグループは差別されていると答えている。

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これらの結果からは、独身差別という習慣は容認できるものだと考えられていることがわかる。

それ以上に重要なのは、独身差別についての認識を高めた回答者たちは、同時に、自尊心と幸福感をも増大させているということである。

つまり、差別を認識することこそが、独身差別の影響を回避するための重要な第一歩なのだ。

この点について、ロリという人物は次のような投稿をしていた。

世界には独身差別と結婚至上主義が満ちていると気づいた自分は頭がおかしいわけではないとわかって、私はかえって、自分のことでも気分がよくなったし、物事を以前より明確にとらえることができるようになった。今ではそれに気づけてよかったと思っている。

もちろん、ときどき、ムカつくこともある。でも、ムカついてたのはずっと前からだったのに、私は自分の怒りには理由があるということに気づいていなかった(※6)

差別に気づいて、「これは差別だ」と認識したことで、ロリの気分は以前よりよくなった。シングルの人たちが差別を認識し、その効果が彼らの心の健康にあらわれるということは、一見すると理解しにくいことかもしれない。

しかし、そのほかの疎外されたグループのことを考えてみれば、彼らもまた、さまざまな社会運動をとおして、自分たちの置かれている状況に対する意識を高め、差別の問題を公共の課題とすることによって、自分たちの心の健康を増進させてきたのだ。

実際、シングルの人たちが自分たちに向けられたネガティブな社会的態度を認識できていないことを考えると、こんにち、社会運動はとりわけ必要になっているのかもしれない。

ロリはまた、こういう投稿もしている。

独身差別を「差別だ」と認識していない人たちがどれほどたくさんいるだろう。私も働き始めたばかりの20代のころには、自分をそういうふうに扱うことは「正しい」ことだと思っていた(※7)

「私はシングルとしての人生に満足している」

戦略②ポジティブな自己認識をもつ

第二の戦略は、ポジティブな自己認識の構築だ。

たとえば、664人の若い成人が参加したある研究によると、ポジティブな人間関係と自己認識は、希望的な見通しとウェルビーイングの増大につながっている(※8)

研究からは、ポジティブな自己認識は高レベルの幸福感と相関関係があることがわかった。個人主義の傾向の強い文化にあっては特にそうだが、それ以外の国でもやはり同様である(※9)

60歳で、離婚の経験のあるパトリシアは、こう話した。

結局、自分にどれだけ自信をもつかだと思うの。自分自身が、「ああ、シングルだなんて本当に情けない」なんて言っていたら、まわりの人たちももちろん、いろいろ言ってくるわけ。だけど、シングルでいることは、私の人生にとっては問題でもなんでもないの。私は自分で選択したんだし、私はシングルでいることが上手にできているの。

パトリシアはインタビューのあいだ、ずっと機嫌がよかった。自分の状況をポジティブにとらえているし、自信をもっている。

彼女の話を聞いていると、シングルでいるという自分の選択についての自信が、全体的な自己認識につながっており、自分自身、そして、シングルの女性であるという現実に対しても、満足していることがわかる。

ドイツのフランクフルトに住む37歳のリナは、パトリシア以上に、ポジティブな自己イメージと自己受容の重要性を強調する。

私の考えでは、(自己イメージと自己受容の)多くはあなた自身のかもし出すイメージに左右されるんだと思う。あなたが自分を受け入れれば、ほかの人たちも多分、あなたを受け入れるようになる。

おかしな話なんだけど、ドイツに来たとき、私は結婚してないのに、教会にいた人たちが、もっと子どもをもつ気があるのかって何度も聞くの。

「次の子どもはいつ産むつもり?」って。

私は、「ちょっと待ってよ。その前に結婚しなきゃ」って言ったわ。しばらくしたら、その人たちにもわかってもらえた。

つまり、こういうことなのよ。自分で自分を受け入れることができれば、まわりの人たちも、そのままのあなたを受け入れるようになる。そのままのあなたであることを、彼らも問題にしなくなる。

私の統計的な分析でも、ポジティブな自己認識は、離婚した人たち、配偶者に先立たれた人たち、結婚したことのない人たちの幸福感と同様の関係があることがわかっている。

結婚していない人たちの場合、ポジティブな自己認識のレベルがほんの少しでも上昇すれば、そのたびに、結婚している人たちの場合よりも大きな効果があらわれる。

見方を変えて、年齢、教育、収入、性別、子どものあるなしなどのほかのあらゆる変数を考慮に入れるなら、ポジティブな自己認識をもつシングルの人の幸福感は、ポジティブな自己認識をもたないシングルの人に比べて、30%近く高まっている。

ニューヨークに生まれ、現在はロンドンに住む、31歳のマヤはこう話している。

これはみんなにいうべきことだと思うし、見ていればおもしろいと思うんだけど、人は誰でも自分自身の人生の旅をしているの。誰でも、自分自身をもっとよく把握することができれば、ありのままの自分に対してもっと居心地がよく感じられるようになっていく。

楽観主義も、同様の役割を果たしている。楽観的な態度でいることは、私のインタビューでも、重要なテーマになった。楽観的な考え方こそが、自己認識と主観的なウェルビーイングをつないでいることは、ほかの研究結果からもすでに判明していたことだが、私の調査の結果もそれと一致している(※10)

スウェーデンに住む54歳のヨルゲンはこう言う。

自分がシングルだっていう気はしないんだ。うれしいことに、自分は守られてるって気がしてるし、あんまり心配することはない。いい人生を生きていると思ってるし、それで十分だ。

私が統計を分析した結果でも、楽観的な見方をするシングルの人たちは、そうでない人たちに比べて、35%多く幸福を感じている。人は楽観的でいたほうが気分がいいことは明らかだ。