「スーパードライを世界ブランドに」アサヒの進撃
これに対し、2022年におけるクラフトビールの数量による市場全体のシェアは、前年比0.1ポイント増の13.2%。生産量は前年より50万バレル減少し2430万バレル。数字からは、シェアも生産量も伸び悩んでしまっている現状が浮き上がる。
それでも、アメリカのクラフトビールは、量から価値への転換を図る日本のビールメーカーにとっての先行指標である。
アサヒは2010年代に世界でM&Aを繰り返し、欧州や豪州の麦酒会社を傘下に収めた。この結果、2022年末で海外売上比率が約52%としている。具体的には2016年に西欧で約2900億円、17年に中東欧で約8700億円を投じて複数のビール会社を買収。
そして20年には豪州でも約1兆1400億円で豪州最大手のビール会社「カールトン&ユナイテッドブルワリーズ(CUB)」を買収した。これらはみな、世界最大手のABインベブから買ったもの。
実はCUBは、1990年代に樋口が投資して失敗したフォスターズの一部に当たる。
アサヒが手を引いた後、フォスターズはワイン事業とビール事業を分離したが、ビール事業がCUBである。やがてCUBをSABミラーが買収し、SABミラーをABインベブが買収。そして、CUBをアサヒが買収した。「スーパードライを世界ブランドにしていく」野望をアサヒは持ち続けている。
「高くても買いたい」商品が求められている
キリンはクラフトビール事業を進めている。クラフトビールを展開するスプリングバレーブルワリー(本社は東京都渋谷区)を設立させ、渋谷区代官山と京都に小規模所増施設を併設するレストランを運営。米豪ではそれぞれクラフトビール会社を買収した。
その一方で、発酵・バイオ技術をベースに独自に発見したプラズマ乳酸菌事業を展開中だ。人の免疫細胞には会社と同じように上下関係があり、指示命令する“部長”に当たる立場の「プラズマサイトイド樹状細胞(pDC)」がいる。プラズマ乳酸菌は、pDCを活性化させる特性をもつ。キリングループの清涼飲料やヨーグルトに使うだけでなく、国内外の食品や医薬メーカーに素材として広く提供している。
サントリーは23年春、「サントリー生ビール」を発売した。同年10月、26年10月の酒税改正をにらんで、酒税が安くなるビールで勝負を賭けた格好だ。
日本のビール4社は、これまでのビール・発泡酒や新ジャンルで培った醸造技術を生かし、価値の高いビール、さらに新しい事業を世に出していくだろう。既存のメインブランドのブラッシュアップはもちろん、クラフトビールのような少量多品種の展開も予想の範囲である。売価は高くとも、消費者から深く支持される商品が求められている。