カリスマ醸造家がなぜソラチエースを?

ペールエールは上面発酵の代表であり、フルーティな味わいなのが特徴。イギリスが発祥のペールエールを18世紀に、植民地だったインドまで遥々と運ぶために開発されたのがIPA(インディアン・ペールエール)。防腐のためにホップをふんだんに使い苦味が強いのが特徴だ。

このほか、小麦麦芽を使うヴァイツェン、ローストした麦芽のスタウト、チェリーなど果実に漬け込んだフルーツビールなどなど、クラフトビールは多士済々たしせいせい。同じIPAでも、醸造所によって味わいは異なる。醸造の職人(クラフトマン)が前面に出て、小さな設備で多品種少量でつくられる。最新設備により、主にピルスナータイプを少品種大量生産する大手のビールとは違うところだ。

それはともかく、現在のIPAの原型をつくったのは、ブルックリン・ブルワリーの醸造責任者、ギャレット・オリバーである。カリスマ醸造家であるギャレット・オリバーは、どうやってサッポロのソラチエースと出会ったのか。

日本で脚光を浴びることなく、アメリカへ

サッポロビールが開発したホップ、ソラチエースは1984年に誕生した。開拓使麦酒醸造所の創業時から、サッポロはホップの育種・研究を行っていて、その一つがソラチエースだった。

育種したのはサッポロの元技術者、荒井康則。現在「SORACHI 1984 ブリューイングデザイナー」の肩書きをもつ新井健司は、ソラチエースについて次のように説明する。

「苦くて香り高いのが特徴。具体的には、ヒノキや松、レモングラス、ディル(魚料理に使うハーブ)を想起させる重層的な香りを醸し、余韻はココナッツのような甘い香りとなる。ベタベタせずに最後は、さわやかに抜けていく。日本生まれのフレーバーホップとして世界のクラフトビール界で評価されています」

北海道空知郡上富良野町にある同社の研究所にて、品種開発がスタートしたのは1974年。10年に及ぶ奮闘により世に出たものの、ソラチエースが日本で脚光を浴びることはなかった。

活躍の場を見出せないまま、ソラチエースは1994年にアメリカに渡る。日本のプロ野球で芽が出なかった選手が、大リーグに挑戦するように。