天才的な頭脳を持つチェスの達人

●首謀者:ムハンマド・イブン・アンマル(1031~1086)

優れた頭脳を持つこの男は11世紀の有名な詩人で、セビリア・タイファ国の文化的な支配者として名高いアル=ムータミド・イブン・アッバードの顧問だった。なぜ彼を?

中世モロッコの歴史家アブデルワヒド・アル=マラクシによると、イブン・アンマルは優れた詩人、優秀な行政官、そして最強のチェスの達人だったらしい。チェスといえば、忍耐心、先見の明、それに物事が計画どおりにいかない場合、臨機応変に計画変更するための適応力が欠かせない。そう、チェスの達人なら、襲撃を警戒するカジノの強奪作戦を立案する首謀者としてうってつけだ。

また、チェス・プレイヤーとしての彼の実績もすごい。カスティリア王アルフォンソ6世とのチェスの勝負に勝利して、都市セビリアを侵略される運命から救ったといわれているんだ。

伝説によると、彼は手彫りの豪華なチェス・セットでアルフォンソに勝負を挑んだらしい。アルフォンソが勝ったらチェス・セットは彼のもの、もしイブン・アンマルが勝ったら、アルフォンソは彼の望むどんなことでもかなえなければならない。

もちろんイブン・アンマルが勝利し、カスティリア軍の完全な撤退を要求した。物語の真偽は疑わしいが、正直なところ、僕にはどうでもいい。イブン・アンマルは、追い詰められた状況でも冷静でいられる、優れた戦略家だったようだ。チームにようこそ! 早速計画を立てよう……。

エジソンを上回った機械学者

●技術担当:蘇頌そしょう(1020~1101)

カジノの防犯システムを破るには最高レベルのオタクが欠かせない。もちろん歴史上、科学の天才はいくらでもいる――天才発明家のニコラ・テスラにトーマス・エジソン、鉄道や蒸気船を設計したイザムバード・キングダム・ブルネル、暗号学者のアラン・チューリング、「コンピューターの父」ともいわれるチャールズ・バベッジ、世界初のコンピューター・プログラマーとして知られるエイダ・ラブレスなど。

蘇頌(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

僕の歴史上のお気に入りが誰か知りたいなら言うけど、僕は驚異的な万能の天才、レオナルド・ダ・ビンチの大ファンで、彼のこととなると興奮を抑えられなくなる。ただしレオナルドは締め切りを守らなかったことでも有名だ。僕が金庫室への侵入を試みている間、彼が隅のほうで機械じかけのライオンを組み立てていたりしたら!

そこで僕は同じくらい輝かしい万能の天才だけど、遅延することはあまりなかった人物を選んだ。11世紀の中国北宋の官僚だった蘇頌は、詩、薬学、天文学、数学、地図制作、芸術論を含む多くの分野で優れた業績を残したが、とりわけ天文時計の制作で知られている。彼が制作した水運儀象台ぎしょうだい(水運渾天儀こんてんぎ)は、脱進機(時計などで、振子などの振動体の振動が持続するように、それらの振動体に間欠的に力を与える装置)の動力源として自動水車を利用した。非常に洗練された装置で、現代の研究者も縮尺モデルを制作するのに苦労したほどだった。たしかにWi-Fiが発明されるより1000年も前の人間かもしれないが、それでも彼ならカジノの監視カメラを欺くことができると、僕は確信している。