個人輸入する“裏技”で、過剰服用する人も

イベルメクチンへの期待感が高まっていくと、インドなどで製造されている海外のイベルメクチンを個人輸入する“裏技”が急増した。国内のイベルメクチンは、寄生虫や疥癬の治療用として承認されているので、新型コロナ治療薬としての処方は原則的にできないからだ。(※)

とはいえ、コロナ治療薬としてイベルメクチンの「服用量」は定まっておらず、SNS上では予防効果を期待して毎日服用している人も散見されている。

イベルメクチンは副作用が比較的少ないとされているが、それは寄生虫治療などでの1回、または2回の少量投与に限った話だ。アメリカでは大量のイベルメクチンを服用して、血圧低下や昏睡こんすいに至った、重篤な副作用が相次いで報告され、CDC(米国疾病予防管理センター)が注意を呼びかけた。

イベルメクチンはパッケージ(商品名:ストロメクトール)に、赤文字で記載されているとおり、「劇薬」であり、各個人の判断で服用するのは極めて危険な行為なのだ。

筆者撮影
イベルメクチンの規制区分は「劇薬」。医師の処方が必要だ

しかも、個人輸入の代行業者10社(Google検索の上位順)を調べると、全てが香港などの海外に拠点を置いている会社だった。イベルメクチンで健康被害などが起きた場合、完全に自己責任となってしまう可能性が高い。

※2021年3月24日の衆議院厚生労働委員会で、田村厚労相(当時)は、イベルメクチンの適応外処方を容認する発言をしている。

イベルメクチンが支持された2つの理由

なぜ人々は、イベルメクチンに強く惹かれるのか。医薬品を社会学の視点で研究する、東京大学薬学部の小野俊介准教授は、2つの要因を挙げた。

「日本人が発見してノーベル賞を得た日本発のイベルメクチンが、新型コロナの救世主になる、という物語は多くの人を魅了したはずです。現実的には、日本はもはや医薬品の先進国ではないし、過去にも世界をリードした時期があったわけでもありません。

もう一つは、科学的な体裁をとった根拠があったこと。一般の人だけでなく、インテリジェンスの高い研究者や一部の医師までイベルメクチンを支持しましたが、臨床試験などの結果の受け止め方が表層的で、本質を見抜く冷静さを失っていたように見えます」

撮影=福寺美樹
東京大学薬学部の小野俊介准教授

「科学的な体裁をとった根拠」の一つが、海外で実施された臨床試験である。