治療薬がない状況で「安心材料」に

筆者は2021年1月に新型コロナの感染が判明して、ホテルで2週間の隔離生活を体験した。激しい咳の発作、頭が割れそうなほどの頭痛で、眠れない日々が続いた。医療機関への入院を希望したが、どこも受け入れるベッドがないという。その代わり、電話で医師が診察して、薬を処方するといわれた。

翌日、ホテルに届いた薬は「葛根湯」と解熱剤のみ。

当時は対症療法しかなかったので、それが最善の治療薬だったのだが、目の前が真っ暗になるほど落胆した。このままホテルで命を失うかもしれない、という不安と恐怖の中で、筆者は“新型コロナの特効薬”と一部で賞賛されていたイベルメクチンをインターネットで知る。正直に言えば、手に入るなら服用したい、という思いに駆られた。

イベルメクチンの最新情報を伝えるために、2021年2月下旬、北里大学・大村智記念研究所の花木秀明教授(感染制御研究センター長)を訪ねてインタビュー取材を行った。テレビや週刊誌、ツイッターも駆使してイベルメクチンをアピールする、スポークスマン的な人だったからである。

ドラマチックな予防効果エピソード

花木教授は、世界各地でイベルメクチンが効いた、という報告をいくつも説明してくれたが、特に強調していたのが、ペルーでの予防効果だった。イベルメクチンを配布した地域で、感染者数や死亡率が「スーッと下がった」というのである。

ただし、治療と予防のメカニズムは異なるし、実際に服用した人数や、感染者数を把握する検査体制も今ひとつ不明確だった。疫学の専門家なら、データの信憑性に欠けるとして一蹴するところだが、一般の人にとってペルーのエピソードは、ドラマチックで分かりやすい。

イベルメクチンの生みの親・大村智氏の部下でもある花木教授の情報発信は、コロナ禍で不安を抱えていた人々の心を捉えていった。

今回、北里大学の花木教授とイベルメクチンの臨床試験を担当した山岡邦宏教授に、改めて取材を申し入れたが、共に辞退するという回答だった。