世界のイベルメクチン論文は「ハリボテ」だった

医薬品として承認を受けるには、試験薬とプラセボ(偽薬)を、無作為に2つのグループに分けた患者たちに投与して比較する「ランダム化比較試験(=通称RCT)」が必要となる。最も質が高いとされるのは、複数のRCTを解析した「メタアナリシス」だ。

「イベルメクチンが新型コロナに効く」というRCTやメタアナリシスは、海外から数多く報告されているが、ここに落とし穴があると小野准教授は指摘する。

「RCTやメタアナリシスといっても、対象患者の選び方や人数、評価項目やバイアス(偏り)を除く方法の有無などで、結果の信頼性は大きく異なります。臨床試験の信頼性を見分けるには、専門的な知識が必要ですが、RCTやメタアナリシスという“科学的な体裁”だけで、結果を信じてしまった人が多かったようです」

イベルメクチンの有効性を示す世界各地の論文について、専門家が調査した結果、不正が次々と明らかになっている。

イギリスのBBCは、2021年10月、イベルメクチンの主要な臨床試験26のうち、3分の1以上に深刻な誤りや不正行為があり、イベルメクチンが新型コロナによる死亡を防ぐとする臨床試験の全てに「明らかな捏造ねつぞうの兆候、重大な誤りがあった」と指摘した。

「イベルメクチンが効く」という科学的な体裁は、見せかけのハリボテだったのである。

「がんにも効く」と発信する人の根拠は…

このようにコロナの特効薬ではなかった事実が明らかになっても、「イベルメクチン神話」は終わらない。最近では、「がんにも効く」という話が飛び交っているが、この情報を発信している人が引用していたのは、NHKのニュース番組の動画だった。

実際に鈴木聡教授(現・神戸大学)のグループは、2015年にイベルメクチンが胆管がんの治療薬となり得る、という研究結果を公表している。そこで鈴木教授に直接話を聞くと──。

「これはマウスにイベルメクチンを投与した基礎研究で、胆管がんの治療薬として使える”可能性”が分かったという段階です。実際の胆管がん患者を対象にした臨床試験ではありませんし、私の知る限り、今後も予定はありません」