は“コロナ特効薬”として一部の人たちから熱烈な期待を集めた。その後、国内外で実施された臨床試験で、「新型コロナに有効性はない」という結果が出たにもかかわらず、現在も効果を信じている人たちがいる。一体なぜなのか。ジャーナリストの岩澤倫彦さんが取材した――。
「イベルメクチンは殺されてしまった」?
「イベルメクチンに関して、日本は全部嘘の情報だけ。国に忖度してどのメディアも踏み込めない。論文でイベルメクチンのエビデンスがないとかいうけど、それはワクチン会社が全部作っているんですね。ワクチンを打たせるために、イベルメクチンは殺されてしまった。ワクチンの問題とイベルメクチンは表裏一体。陰謀論じゃない!」
持論を一方的にまくし立てたのは、兵庫県でクリニックを経営していた長尾和宏氏。約300人のコロナ患者にイベルメクチンを処方して、死亡者ゼロだという“イベルメクチン推し”で知られる医師だ。取材を申し込んだところ、本人から筆者に直接電話がかかってきたのである。
イベルメクチンが新型コロナの治療に有効なのか調べた、国内2つの臨床試験の結果について、長尾医師に見解を聞きたかったのだが、議論が全く噛み合わない。事実と異なることを前提に話すからだ。
計64億円の公的資金を使った臨床研究
北里大学は、2020年8月から2021年10月にかけて、248人のコロナ患者を対象に、イベルメクチンの臨床試験を実施。イベルメクチンとプラセボ(偽薬)を投与した2つのグループを比較した結果、新型コロナウイルスのPCR検査が陰性になるまでの期間に差はなかった。研究費は日本医療研究開発機構からの公的資金4億円が使われており、ワクチンメーカーから1円も入っていない。
製薬会社の興和も、2021年11月から1030人のコロナ患者を対象にイベルメクチンの臨床試験を実施したが、こちらも効果は実証されなかった。興和は厚生労働省から60億6387万円の支援を受けており、ワクチンメーカーの資金提供はない。
長尾医師は「国に忖度してどのメディアも踏み込めない」と述べたが、むしろイベルメクチンを好意的に伝えたテレビや週刊誌は少なくなかった。一時的なブームと期待感で取り上げたが、臨床試験で有効性が否定されたので報道しなくなったのだろう。
また、国内の臨床試験に多額の資金を投入している事実から考えると、国はイベルメクチンに大きな期待をかけていたとみるべきだ。イベルメクチンに関する情報を、ファクトチェックしていくと、誤解や思い込みの情報が一人歩きしていることが分かる。