リーマン・ショック後に落ち込んだ日本企業の人材投資

典型的な企業内訓練校は、中卒者・高卒者を中心として、学校卒業後に数年間、手当をもらいながら総合的な教育訓練を受ける場です。多くの場合で寮生活が営まれ、実務教育以外にも「心身教育」という名の企業人としての心構えも施されながら、技術者として基礎から育て上げられていました。

そうしたブルーカラー領域の「企業内訓練校」とは別に、日本の先進企業が本格的に「コーポレート・ユニバーシティ」に取り組み始めたのは2000年前後から。経済の重心が徐々にサービス産業へと移ると同時に就業者の高学歴化が進み、企業訓練校が主な対象としてきた高卒・中卒者が減っていきました。そうした中で、アメリカで勃興してきたコーポレート・ユニバーシティの実践を横目に見つつ、日本企業もコーポレート・ユニバーシティをホワイトカラーも含んだ社員教育機関として続々と立ち上げてきました。

しかし、その一方ですでにバブル崩壊を迎えていた日本企業においては、人材投資費の抑制はすでに始まっていました。2000年代半ばのブームの後にはリーマン・ショックがあり、昨今に至るまで企業の人材育成費は拡大せず、いつの間にか消えていったコーポレート・ユニバーシティも少なくありません。

「キャリアの学校」としての企業

そして今、「DX人材育成」「リスキリング」というブームの中で、大企業、中小企業ともにこのコーポレート・ユニバーシティ方式を取り入れる企業がまた増えてきました。

リスキリング・ブームと相まって、「第3次」ブームを起こしています。ダイキン工業の「ダイキン情報技術大学」、ヤマト運輸の「Yamato Digital Academy」、ヤフーを運営するZホールディングスの「Zアカデミア」など、近年続々と再編が進みます。

まさに「学びのコミュニティ化」の施策であるコーポレート・ユニバーシティの進化は、日本のリスキリングの鍵を握っていると筆者は考えています。それは、企業がビジネスという「仕事の場」であると同時に、継続的に学び合う「キャリアの学校」のような仕組みへと進化・深化していくことができれば、社会関係資本と社会ネットワークを構築していく基礎として期待できるからです。

図版=筆者作成

かつての企業訓練校と対比させる形でまとめましょう。これからのコーポレート・ユニバーシティは、全業種・ホワイトカラー含む形態になっていること部門を超えた越境的なネットワークづくりによって、「組織内」ではなく「組織間」の社会化・育成をほどこすものになります。また、LMS(学習管理システム)を中心に、ラーニング関連のテクノロジーの活用も同時に進んでいくでしょう。

さらにコーポレート・ユニバーシティという統一的なパッケージには、その他の人材マネジメントの諸機能を統合・包含していくことも可能になります。いわゆるキャリア研修をコーポレート・ユニバーシティの中のプログラムとして取り込む企業はありますが、研修プログラムだけでなく、「キャリアの対話会」や「ピア・コンサルティング」など、同年代と語り合うキャリア・イベントの機会を用意することもできます。

また、外部まで開かれたタイプのコーポレート・ユニバーシティもすでにでてきました。そこでは他社の人材も交えて学び、交流を図ることで、将来の採用候補と出会ったりつながりを作ることもできます。離職者でも参加できるようにすれば、最近盛んになってきたコーポレート・アルムナイ(企業同窓生)との関係構築もできます。