中選挙区時代の問題は金権政治と利益誘導

総理総裁を目指している自民党の各派閥の長にとって、自民党が敗北したとしても、自己に属する候補者が当選し、他派閥の候補者が落選すると、総裁選挙で有利となる。中選挙区制の下では、自民党と他党の候補者との争いではなく、自民党内の候補者同士の争いだったのである。これが派閥を中心として激しい金権政治を生んだ。派閥の力となる国会議員の“数”を持つためには、“金”が必要だった。その典型が田中角栄率いる木曜クラブ(田中派)だった。「数は力」だった。

また、多数の有権者の支持がなくても20%程度の票で当選できるので、一部の地元利益団体の固定票を確保することが優先されがちになるし、その見返りに、政権党である自民党議員は地元への利益誘導を図ろうとするという批判も行われた。選挙制度が既得権者に有利に働いていたというのだ。

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小選挙区でも利益誘導の問題は残った

これに対して、小選挙区制であれば、同じ自民党候補同士の争いは起きず、派閥本位ではなく、政策本位、政党本位の選挙が行われ、金権政治ではなくなるはずだとされた。また、投票者の半数近くの票を得なければ当選できないので、特定の利益団体の支持だけなく、組織されていない有権者からの支持も必要になる。このため、特定の利益団体より市民全体の利益が優先されるようになると考えられた。

しかし、激しい金権政治はなくなったが、それ以外の点では失敗した。

二人の候補が対立する小選挙区制では、JA農協のような特定の利益団体が組織する票がキャスティングボードを握るようになり、利益団体の力は排除できなかった。なにより、民主党政権の失敗により野党の当選力が低下し、自民党の独り勝ちとなる中で、いったん自民党から当選してしまえば、よほどのことがない限り国会議員としての地位は安泰となる。現職優先の原則では、自民党から新しい候補者が出てくる恐れはない。