開業2年で10回以上訪れるリピーターも

結局、乃村工藝社チームは、家具や照明、ディスプレイまで含めた広い意味での内装はもちろん、ホテルスタッフのユニフォームやネームプレート、アメニティ類に至るまでをデザイン。館内をオリジナルデザインで埋め尽くしていった。

そして2019年9月。3年半をかけたザ・ホテル青龍 京都清水は完成し、運営会社である西武・プリンスホテルズワールドワイドに引き渡された。建設中からプロジェクトに参加していた総支配人の広瀬さんは、感慨もひとしおだった。

「初めて開業をやらせていただいて、建物の引き渡しを受けた時には、正直、かっこいい素敵なホテルだなと思いました。関係者のみなさんの前で、素晴らしいものをつくっていただいたので、あとはわれわれで魂を入れますって宣言したんです。で、少しずつ魂を入れられたかなと。

うれしいことに、まだ開業して2年ちょっとなのに、もう10回以上も訪れてくれるリピーターの方がいらっしゃいます。ハードの魅力があるんですね。48室という小さなホテルですので、それだけお客さまに深く接することができます。ザ・ホテル青龍 京都清水だからこそできることが、たくさんあると思っています」

ホテルの開業に先立って、地元関係者への内覧が行われた。小坂さんが、もっとも嬉しかったのは、地元の方々が褒めてくれたことだという。

撮影=永禮賢
階段はタイルを復原。手すりの傷に生徒たちの痕跡が

「記憶を刻み、未来へつなぐ。」

「この学校の卒業生のおじいちゃん、おばあちゃんがいらして、“私、ここの階段で”とか“私が小学校の時は”とか、僕に思い出を話してくれるんです。それで、私たちの学校をこんな風に残してくれてと感謝される。観光客のためだけではなくて、地元の人たちと共存共有し、誇りに思ってもらえる施設をつくるという、僕らの一番の目標が達成できたような気がします」

能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)

実際、観光客のほかに、地元の利用者は多いと広瀬さんはいう。

「2階のレストランは、地元の方のクラス会で貸し切りが多いです。たいてい館内をひと通り見学していただいてから食事会という流れですね。来ていただいた方たちに昔話を聞いて、それを新しい人たちに伝えていく。歴史の伝承じゃないですけど、それがすごく楽しいです」

NTT都市開発が京都市に提案した開発コンセプトは、「記憶を刻み、未来へつなぐ。」だった。その想いは、このヘリテージホテルの空間で、確かに息づいている。

(2022年8月取材。記事の肩書は取材時のものです)

能勢剛『「しあわせな空間」をつくろう。 乃村工藝社の一所懸命な人たち』(日経BPコンサルティング)
スタジオジブリの作品世界を精緻につくり込むことで幅広いファンを惹き付けてやまないジブリパーク、海外からの観光客も熱狂する動く実物大ガンダムのヒミツ、リモートワークではなく社員が会社に行きたくなるようなリアルのオフィス空間など。本書では人々の「しあわせ」を呼び起こす13の空間にせまった。
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