洋と和とをうまくミックスし、京都を感じさせる内装に

「校舎の元の意匠が美しいので、それを活かしてなるべく引き算でつくりました。例えば、廊下の天井には、おびただしい量のダクトや電線を設置しなければなりません。そうすると天井が下がってきて、すごくきれいな元の廊下を台無しにしてしまう。それで、天井に黒いツヤのある板を張って、床の意匠を映り込ませました。下がってくる天井そのものの存在を消したんです。

同じように、客室を仕切る壁は半光沢の白いものにしました。元からの美しい窓や天井の意匠が映り込んで、壁として主張しなくなる。ツヤのある壁って、建築的にはあまり使わないものなんですけどね」

洋と和とをうまくミックスし、京都の歴史や伝統を感じさせる。元からある美しさを活かし、それ以外のものは存在感を消していく。こうした手法は、客室や廊下に限らず、館内のあらゆる場所で用いられた。

天井が高い大空間の2階レストランは、小学校の講堂だった場所。天井は元のものを再生し、桟が入った大きな窓もそのままの形で再生した。席に着くと、テーブルの天板には、天井の意匠や窓からの光が映り込む。

レストランは図書室をイメージ。上段に草木染のブックカバーが並ぶ
撮影=永禮賢
レストランは図書室をイメージ。上段に草木染のブックカバーが並ぶ

ライブラリーをイメージして、仕切りのように配置した本棚には、上段は草木染の大きなブックカバーの列。その下には、京都の歴史や伝統の関連書籍が並ぶ。ノスタルジックな照明や家具も配置され、あたかも歴史あるクラシックホテルであるかのような空間になっている。

講堂の一角を改装したプライベートバス。天井が高く、気持ちがいい
撮影=永禮賢
講堂の一角を改装したプライベートバス。天井が高く、気持ちがいい

テーブルや椅子、ベッド周りの家具もオリジナル

さらに、館内の世界観をつくるのに大きな役割を果たしたのは、オリジナルの家具類だ。担当したのは乃村工藝社A.N.D.のデザイナー、佐野香織さんだった。

佐野さんは、他のデザイナーの協力を得ながら、場所ごとのデザインテイストやサイズに合わせて、次々と家具をデザインしていった。その数は、館内すべての家具の7割にも及んだ。

乃村工藝社A.N.D.のデザイナーの佐野香織さん
撮影=永禮賢
乃村工藝社A.N.D.のデザイナーの佐野香織さん

「一般的にホテルでは、耐久性やコストの面から、オリジナル家具を制作することはよく行われます。ただ、今回は、同じ家具をたくさんつくるのではなく、部屋のデザインと形、そしてサイズに合わせて、テーブルや椅子、ナイトテーブル、ベッド周りの家具など、きめ細かくデザインしていきました。

デザインで意識したのは、全体的にちょっとノスタルジックな家具というところなのですが、絶妙な曲線をつくるのが難しかったですね。ゲストラウンジにも椅子がいくつか入っていますけど、その椅子も脚の曲線に苦心しました。椅子は、けっこう寸法感が厳しいので、全体的に難しかったです。出来上がったものの、座り心地が納得できなくて脚を切ったり、そもそも予定した場所に収まらなくて、つくり直したこともありました」